「新宿!?、新宿御苑!」
映画『首都消失』(1987年)のTVスポットCMで、主役の渡瀬恒彦が真顔で叫んでいたのが印象に残る。
原作は中日新聞(東京新聞)への連載小説で、自身が総監督務めたSF映画『さよならジュピター』製作を終えた直後に取材やら執筆が開始されたものだというから、なんともバイタリティーあふれる小松先生らしい。
あらすじは、政治も経済も一極集中だった東京を中心にした首都圏にある日、高さ2キロ・半径30キロにもおよぶ巨大な雲が突然のしかかり、その雲の外側と内側ですべての交通、通信が断絶されてしまい、その混乱の中で、東西冷戦のさなかの米ソをはじめとした海外諸国、そして残された“地方”はどう動くか?という、いかにも地方新聞が好きそうなお話。
それで連載された中日新聞(東京新聞)に配慮して、主要登場人物のひとりに、地方紙の新聞記者がまさに“社会の木鐸”となって活躍する様が描かれているが、映画では関西テレビが製作に入っていたこともあって、その部分は大阪のテレビ局の報道部とテレビキャスターに挿げ替えられたオトナの事情も加味されている。
首都消失《デジタル・リマスター》 [DVD]/渡瀬恒彦,名取裕子,山下真司
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『さよならジュピター』ほどではなかったが、次作であるこの『首都消失』もまた評価は低い。小松先生、さすがに懲りたのか本作は一切タッチせず、その分、監督&脚本の舛田利雄が張り切っちゃって、近藤真彦&中森明菜の主演映画『愛・旅立ち』でワケのわからないことを“やっちゃった”直後だけに、その影響がびんびんに出てしまっていたりして観客置いてけぼりにしたのがイケなかった。でも、特撮監督に中野昭慶が入っていたし、もちろん氏が入っているからにはガスタンクを“中野爆発”させたりして、1984年版の『ゴジラ』を喜んで観た奇特な自分は大いに満足したものだ。
さて、原作『首都消失』は上下巻で出され、自分は映画を観た直後に読み始めてみたものの、じつは上巻で挫折してしまった(笑)。後年、ようやく下巻読んでみたところ、驚いたことがあった。終章で、雲が晴れたなかに主人公がひとり入っていこうと移動するのだが、そのスタート地点がなんと当時自分が住んでいた近くの場所なのだ。そして、エンディングで雲によってその外側と内側を断絶していた厚い壁の痕越えていこうとしたところも引っ越す前に住んでいた場所の近く。
80年代半ばに小松先生が執筆したときは、引っ越す前の家のときだから、ギリギリ助かったか、もしくは誤差で雲がかかってしまっていたか。とにかく、小松先生の代表作の一つとなった作品の、それもエンディングに自分にゆかりがあるところが出てきたのは感慨深かった。
2003年に映画『さよならジュピター』がDVD化された記念に、東京・青山の書店で小松先生のサイン会が行われたのに参加した際、このこと話して「ハハハッ、家が雲の壁につぶされなくて良かったねぇ」との言葉をいただいた(笑)。
というわけで、日本映画専門チャンネルは「小松左京先生 追悼特集」を組むように!