タイトル「フラッシュダンス殺人事件」の“フラッシュダンス”とは、ご存じあのダンス映画から。この回は金庫破りの青年と、そうとは知らずに付き合うミュージカル女優を夢見る女性ダンサーの物語で、かなりストレートなネーミングだが、“殺人事件”と付けたのは思わず勢い余ってか、結局殺人事件は最後まで起きなかった。打ち切りが決まってしまった『スーパーポリス』スタッフの混乱していた状況が伺える。


なお、映画『フラッシュダンス』は日本では1983年7月公開で、この第10話の1985年6月放送より丸二年も前の作品ながら、この段階でも作品の人気はじつは衰えてなかった。まず公開時は、作品とともに主題歌、そしてサントラ・アルバムが爆発的にヒットし、それがロングセラーとなったことで、その後の『フットルース』、『ビバリーヒルズ・コップ』などの映画×音楽のメディアミックスに道筋を付けた。また、主題歌は麻倉美稀の日本語カバーがヒットドラマ『スチュワーデス物語』の主題歌に採用されるなど独自のムーブメントも起きる。


そして、なんといってもビデオの存在だ。80年代はご存じのように家庭へのビデオデッキの普及が進んでいく時代なのだが、80年代初めまでは高価格商品ゆえに富裕層の家庭中心だったのが、この80年代半ばくらいになると、オーディオ製品の延長として(いわゆるAV時代の幕開け)十代後半から二十代の世代の若年層がパーソナルアイテムに購入していくようにもなる。これによってビデオソフト市場がようやく軌道に乗りはじめた。セルにしてもレンタルにしても、近隣公開の『フラッシュダンス』は人気ソフトの一本となっていた。


このことはテレビ放送によっても証明される。1985年10月12日、フジテレビの秋改変期の目玉として「ゴールデン洋画劇場」枠において国内初放送。これがなんと、日本語吹き替えではなく、オリジナルの英語音声のみで日本語字幕によるものだったのだ。作品の音楽性を優先して二カ国語にするよりもステレオにこだわった。「ゴールデン洋画劇場」は80年代の映画放送の賛否両論渦巻く慣習であった、吹き替えに声優未経験のタレントこぞって起用していた映画番組の代表格ではあったけど、さすがは時流を読むのが上手い当時のフジテレビ、これは英断であった。もしも吹き替え放送だったら、話題作だけに当時結婚休養したばっかりの松田聖子あたりを引っ張り出してきてさせていたに違いない(ちなみに自分は、戸田恵子による吹き替え版は好きでDVDはオリジナル音声よりもこちらで観ている)。


茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry
『フラッシュダンス』のテレビ初放送に合わせてジェニファー・ビールズを表紙に起用。



とにもかくにも80年代既にスタンダードであった映画『フラッシュダンス』にもろ影響を受けたこの第10話、内容的にはまずまずのもの。いままでのものと比べて破綻しているところは一番なく、突っ込みどころがあまりない。じゃあ、「面白い?」と問われれば、そういうことはない。


当時ソニーのビデオ&カセットテープのCM曲でお茶の間にガンガンに流れていたテリー・デサリオ「OVER NIGHT SUCCESS」をBGMにしてジェニファー・ビールズになりきるダンサー役の余貴美子の撮り方がなってなかった。この回のキモなんだし、『フラッシュダンス』からインスパイアしたんだから、そこまで拘ってほしかったもの。

今回まあ強いて言えば、三浦友和が新井康弘に手錠掛けてもう一人の犯人を捜しに連れ回す様が滑稽で面白い。タケちゃんマンの終盤のコントでビートたけしが明石家さんまをモノのように扱うように、三浦が新井をもっと粗雑に扱っていったらいっそう面白かったのにと思った。


あとは、金庫破りの新井がそのテクニック使って手錠を難なく外す場面くらいかな。これをフィーチャリングして、クライマックスには深川通り魔こと大地康雄との冗長な対決ではなく、監禁されて閉じ込め→時限爆弾→鍵を開けて脱出という場面など持ってくれば今回の新井のキャラが立っていたかもしれない。


さて、今回のファミ劇のオンエアに合わせて、当時のテレビ情報誌を紐解きながら書いているのだけど、前週に打ち切りが発表されたからか、この週のものからは各誌のTBSの広告ページより『スーパーポリス』が降ろされてしまっている。なんとも悲惨。