1985年の作品。自分は「007」シリーズのファンではあるけれど、作品によりけりで好きなものもあれば嫌いなものもある。この「美しき獲物たち」はあまり好きではないほうの作品。

じつはショーン・コネリーよりも年上なロジャー・ムーア最後の出演作だけに、いつにも増してアクションはスタント任せで、しかもそれ丸出しだったし、前作「オクトパシー」に続いて物語の展開に緊張感がない。「007」のネームバリューと杉良なみのロジャー・ムーアの奥様キラーの魅力だけで作られていた。

しかし、“最高”な部分がある。それは主題歌を当時全盛期だったデュラン・デュランが担当していることだ。「美しき獲物たち」の原題名をそのまま曲名にした「A VIEW TO A KILL」は、この年唯一の新作発表曲だった。



1981年デビュー以来、日本を含めた世界の十代の洋楽ファンを制してきたデュラン・デュランは、1985年に入ると、二つのサイドプロジェクトを始動させる。ひとつはヴォーカルのサイモン、キーボードのニック、ドラムスのロジャーが作ったアーケイディア。

もうひとつはベースのロジャーとギターのアンディーが作ったパワーステーション。ヴォーカルにロバート・パーマー、ドラムスに70年代後半のアメリカディスコミュージックを席捲したシックのトニー・トンプソン、そしてプロデューサーに同じくシックのベーシスト、バーナード・エドワーズという布陣。バンド名の由来になったNYのパワーステーション・スタジオの音響を活かしたアンビエントなドラムの音は世界中に影響を与えた。

今回取り上げている「A VIEW TO A KILL」もパワーステーションつながりでバーナード・エドワーズがプロデュースをしていて、そのドラムの音がばっちりと聞こえる。まさに世界で一番売れているバンドの、世界最先端のサウンドだったのだ。

さて、この「美しき獲物たち」で007の敵役のゾリン役を演じるのは、「ディアハンター」でアカデミー助演男優賞のクリストファー・ウォーケン。ウィキペディアには、ゾリン役には当初デヴィッド・ボウイにオファーがあったと記されているけれど、当時の「TVガイド」誌の先取り情報に寄れば、映画出演に興味を示していたポリスのスティングのほうにそれより前にオファーがあったという。時流を反映して、MTV感覚の作品にしようとしていて、その名残としてのデュラン・デュランの主題歌起用だったのだろうか。

それから、この当時のクリストファー・ウォーケンといえば、明石家さんまにそっくりだったと思うのは自分だけではないはず(笑)。「オレたちひょうきん族」の『タケちゃんマン』コーナーでは、古今東西の映画を作品ごとパロディーにした話がひとつのパターンで、アカデミー賞作品とはいえ、「愛と悲しみの果て」まで取り上げているから、かなり渋いところまで手を伸ばしていたのに、なぜだかメジャーである「007」シリーズは取り上げたことがない。いまさらながら、「007 美しき獲物たち」の『タケちゃんマン』版パロディーを観てみたかったものである。

007=ビートたけし
クリストファー・ウォーケン=明石家さんま
ボンドガールのタニア・ロバーツ=旬を過ぎてて、ドラマ撮りを抱えていなく暇なゲスト女優(ひょうきんディレクターズの趣味が反映)
グレイス・ジョーンズ=黒塗りメイクしたウガンダ

キャスティングはこんな感じで(笑)。