すべり台
梅雨に入り、気温も少しずつではあるが上がってきた。この季節は、空の様子を見ては、園庭で自由あそびを取り入れている。4月に入園してきた年少組も、だいぶ園に慣れ、社会に出て初めての仲間を手に入れたようだ。この園庭を駆け回る園児たちを見て、私は、時折、思い出すエピソードがある。
これは、今から丁度20年前の話である。当時、年少から年中に進級した弟(当時4歳)のクラスに一人の男の子が入園してきた。名前はY君。Y君は病弱であった為、一年遅れての入園であった。当時、弟が私に「片耳の小さな男の子が入ってきた」と教えてくれたのを記憶している。
入園を楽しみにしていたY君だが、入園式の朝、体調を崩し欠席をしてしまった。しかし、翌日、Y君は元気に登園してきた。そして、夢にまで見た初めての友達に囲まれ楽しい一日を過ごした。そして、保育が終わりY君をお母さまに引き渡した時、Y君は一つのお願いを口にする。
「すべり台を滑りたい」
Y君は入園する前から、園庭にそびえたつ、大きなすべり台を滑りたくてしかたがなかったのだという。お母様と1回だけと約束を交わすと、一回だけ小さな体を滑り台から滑らし、「また明日!」と言って降園をした。
それから数日、Y君が幼稚園を欠席する日が続いた。そして一週間が経過した、ある日、一本の訃報が入った。Y君が亡くなったという連絡であった。持病の心臓病の悪化であった。当時4歳・7歳であった私たち兄弟にも、それは衝撃的な記憶として残っている。
そして、これは私の家族から聞いた話だが、その夜、ある家族が幼稚園を訪問してきたそうである。Y君の家族である。手にはY君が入った棺おけ・・・。
夢の詰まった幼稚園を最後にY君に見せたかったのである。棺を抱え、正門の前で泣き崩れるご家族の様子を想像すると、「悲しくて・有難くて」涙が出そうになる。
あれから20年。私は園庭を駆け回る園児たちを見て、考えることがある。私達が作れる思い出とは何なのだろうか?園児・保護者に感動を与える保育をするにはどうしたらよいのだろうか?Y君家族が幼稚園に寄せたような期待(夢)に応えるにはどうしたら良いのだろうか?
きっと、パーフェクトな答えは見つかりっこない。ただ、今目の前にいる園児に全力で接することが誰にでも出来る大切なことなのかもしれない。
※Y君の死から9年後、Y君の弟が幼稚園に入園してきた。現在、Y君の家には2枚の卒園証書がある。