クチパク | 城山魂

クチパク

 パクパク・・・パクパク・・・。4歳になったばかりの園児Mちゃんの口が動く。

それは、修了式の最中であった。Mちゃんはクラスの中でも一際、小さく、シャイな子だった。人見知りをする彼女は、4歳にして人と目をそらす習慣があった。

 その彼女が、珍しく、私に向かって必死に何かを言っている。式の最中であったため、私は、彼女にジェスチャーで前を向いておとなしくするよう伝えた。しかし、彼女の口は止まらない。やがて、立ち上がり、口をパクパクさせ始めた。気づいた担任が、彼女を席に着かせる。私は邪魔になってしまうといけないと思い、修了式後に予定されている卒園式の準備のため、ホールを出た。

 彼女の引っ越しを知ったのは、その日の夕方であった。数日前に、急遽、転勤が決まった父親に連れられ、彼女は遠くへ引っ越すこととなったのだ。

 彼女は一体、私に何を伝えようとしたのだろうか?もしかしたら、彼女にとって物凄く大切な話だったのかもしれない。一方でトイレに行きたいとか、そういった類の話だったかもしれない。しかし、それが、どういった話であったにせよ「人の話をしっかりと聞く強さを身につける事」を当面の目標としていた私の心は、後悔でいっぱいになった。また、式の途中だっただけに、何が最も正しい対応であったかも未だに分らない。ただ、一つ学べたことは、「終わりは突然やってくる」ということである。

 仮に私が「今日はMちゃんの最後の登園日」と知っていたら、私は、彼女に何を伝えただろうか?恐らく「がんばってね」「気をつけてね」と当たり障りのない言葉をかけてお別れをしていたように思う。

 私には夢がある。そして、これだけは伝えておきたいという熱い思いもある。しかし、その思いを子供にも分かる形で伝える方法を知らない。人は人の背中を見て育つ、と言われるように、本当は時間をかけて、背中で保育をすることがベストなのかも知れない。しかし、残された時間が限りなく少なくなった時、どうしても口に頼らざるをえない場合もある。そういった時、伝えられる熱い思いがなければ、それは考えを持っていないのと同じになってしまう。

私は、自分自身がやり直さねばならない課題に気がついた。それは、自分の幼稚園経営を支える熱い情熱を、誰にでもわかる形で伝える方法を作り上げるということである。最初は若造のたわごとになってしまうかも知れない。しかし、言葉は繰り返すごとに厚みが増すものであると考える。私は幼稚園経営は月謝集めではなく、仲間集めであると考える以上、この信念を伝える活動を続けていきたい。

電車が行き先をしっかりと示すように、私も幼稚園の行先(こんな世の中にするために頑張っています)をしっかりと示し、より多くの人たちに、ありがとうを言っていただける幼稚園を目指していきたい。