悪の視線
本日、午後2時頃、私は仕事の関係で葛飾区某所の小さな公園におりました。
道路を挟んで公園の向こう側、某飲料メーカーのお兄さんが自動販売機の商品補充をしている。
なんてことはない、ありふれた風景だ。
いや、ちょっと待て。
私は気がついた。
あの自販機の前でしゃがんで仕事している兄ちゃんは、俺の知っている人物だぞ。
あのズボンのずり下げ方とシルエット、そして、オスとしての生命力の無さ。
後姿だけでも、すぐにわかる。間違いない。
彼は、過去に北千住の職場で一緒に働いていた男だ。
それならば、すぐに声をかけて旧交を温めればいいじゃないか、という意見があるかもしれない。
私は、そうはしなかった。
なぜなら、目の前でこちらに背を向けながら炭酸飲料や缶コーヒーや烏龍茶を補充している男には、北千住の職場でレッドカード一発退場モノの反則を犯し、周りのスタッフ達に多大な迷惑を与えた経歴があるからだ。
元職場の同僚からは、「彼は、リューさんと面会することを避けています。恐れています」という報告も受けている。
私はしばらく声をかけず、彼を見つめ続けた。私の目から発する粒子を、彼の背中に浴びせ続けた。
見つめ続けて3分。ふと、不穏な空気を感じ取った彼がこちらを向いた。
私は、「やあ、久しぶり」と言って、手を振った。
その時の彼の表情。
きっと、重厚で禍々しく、それでいてピカピカに磨き上げられた銃を殺し屋に向けられた人は、ああいう表情をするのだろう。
無理もない。彼にとっての私は、「世界中で会うことを避けたい人間ベスト5」に入る人間だから。
「あ・・・リューさん、お久しぶりです。俺、全然、気がつきませんでした」
「そう?俺はけっこう前から、○井君のことを気がついていたよ」
「そうなんですか・・・」
「ああ、ごめんごめん、仕事中に。続けて続けて」
「あ、ハイ・・・」
彼が自販機の補充を再開した後も、私は彼の背中を見つめ続けた。
彼の手が早まる。まるで、腕が6本あるかのように。そして、それに呼応した動悸が聞こえてくる。
公園内にいる現在の職場の同僚が、
「タカハシさん。あの人、めっちゃ、急いでませんか?」と問いかけてくる。
私は、「ふふ。そうですね。急いでますね。あ、今、リアルゴールドとコーヒーの位置、間違えそうになりましたね」と言って、微笑んだ。
こちらが公園を去る時間となった時。
私が、「元気そうで良かったよ」と言って、別れを告げると、彼は泣きそうな表情で笑いながら、「お疲れっす」と小さな声で言った。
また、会えるといいね。
