スーツをいただいてきました | 38度線の北側でのできごと

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38度線の北側の国でのお話を書きます

 1時間後に自分がどうなっているかわからない人生ってのは、楽しいようでハラハラする。ただ、どうなるかはほぼ、いい方向限定。落ち着きのない人生だと人はいうのかも知れないけど。

 

 先日Twitterのタイムラインに「スーツいりませんか」という情報が流れてきた。何でもテーラーをされていたお父様が作ったもの。そのお父様は三越百貨店にスーツを卸しながら、自分が着ていた一品だという。お父さんの身長は160センチ。残念ながら他界されている。

 

 ぼくは身長が168センチで体重は48キロ。たぶんサイズはぴったりなはず。欲しいですと伝えたらお花茶屋駅まで来て欲しいとのこと。

 

 土曜日の午前中から京成線に乗る。上野駅から目を凝らして博物館動物園前駅の痕跡を見て、お花茶屋駅で降りる。もちろん初めての駅。

 

 しばらくすると、女性がひとりやって来た。ぼくの服の特徴は直前に伝えていたがちょっと不安だった。どうも、と頭を下げると昔ながらの住宅街に入っていく。

 

 京成線沿線、特に普通電車しか止まらない駅ってよく雰囲気が似ていて、マンションもあるけど駅前は道が狭く商店街のアーケードがあったり、道もくねくねしていて23区内とは思えない。ぼくの住んでいる場所が、ザ・団地というシムシティみたいな雰囲気もあるのでなおさら。

 

 どうぞ、と通された部屋で何着かスーツを出してもらう。上の服を脱いでカッターシャツに合わせると、ピタッと肩におさまった。これはいいぞ。パンツは少し修正が必要。丈が短い。「手足が長い」といわれた。

 

 スリーピースが出てきた。これも肩が締まる。くるりと回ってみる。悪くない!「タイトなジーンズにねじ込む、私と言う戦うBody」とBOAは歌ったけど、この歌の意味が今さらよくわかった。ここで女性のお母様が顔を出す。「あら本当にぴったり。お父さんみたいだわ」ということばに嬉しくなる。スーツ上下1着とコート1着、ツーピースを1着いただくことに。

 

 お母様に甘えることにしたのだが、連れていかれたのは家ではなくカラオケ喫茶。「クイーン」と書かれた店の中には演歌が流れていた。

 

 実家がカラオケ喫茶だったのだ。かくしてぼくは演歌の流れる中、戦利品のスーツなどをエコバックに入れ美味しい食パンを食べ(ピーナツバターをたっぷり塗った)、珈琲とバナナを食べた。ちょうどお花茶屋駅で降りてからわずか1時間後のことである。

 

 人生はどうなるかわからない。ただし、いい方向に限る。