いい文章を書くには | 38度線の北側でのできごと

38度線の北側でのできごと

38度線の北側の国でのお話を書きます

 学で授業をしてきた。まだ20歳そこそこ、時に10代の学生もいる教室での授業を終えて困るのは、質問がなかなか出ないこと。大学の恩師も「毎年申し訳ない」と謝るけれど、こればかりはしょうがない。だって北朝鮮が面白いなんていうおっさんが突然教室にやって来て、北朝鮮の面白さを好き勝手に話すなんて怪しさ満点、テロにも等しい行為ではないか。

 

 だが偉いのは、恩師が指名すると学生たちはちゃんと答えてくれるのだ。ホッとした。

 

 そしてたまに、素晴らしい本質をついた質問が出るから油断が出来ない。

 

 将来自分の本を出したいという学生から、いい文章を書くには?と問われた。

 

 そんなんぼくが聞きたいわっ!とふざけて返しちゃいけない質問だ。

 

 ぼくはこう答えた。

「色々な本を読んで欲しいと思います。決して世界文学全集だとか硬い本だけを読むのではありません。例えばスポーツ新聞でもいいのです。野球の結果を伝える記事ひとつにも、ヒントは詰まっています。限られた文字数の中で必ず伝えなければならないこと。試合の結果、経過、誰が打ち誰が打たれ、見どころはどこだったか。それだけではなく、そこに記者の個性を感じさせる部分はあったか。それを意識して読むだけでも、全然違ってきます」。

 

 伝えられなかったことがひとつあった。これは自分の体験をふまえてだけれど。

「まずは最低ひとりの読者を見つけましょう。最悪その人のために文章を書こうと思えれば、腹が据わります。でも簡単に読者なんて見つかりません。ぼくはみなさんと同じ年齢のころに、幸いそういう人を見つけ、その人のために書こうと思い、書き続けたことで今があります」。