前の職場で、ものすごくぼくのことを可愛がってくれた方がいた。
ある日、ぼくが一本厄介な電話対応を終えるとぼくの席までやって来た。「おまえの電話対応は素晴らしいな。お客さんも喜ぶぜ」。
そう褒めてくれ、お互い誕生日も同じと知ってからは時々昼飯を奢ってくれた。時には昼休みを勝手に延長して、自ら社用車を運転して美味しいうどん屋に連れてってくれた。正午に行ったら間に合わねえんだ、行くぞ。ぼく、派遣なのに。これはさすがにヤバくないですかぁ…、と助手席で呟くと歯切れいい答えが帰って来た。
知らねえよ!気にすんな!俺が責任を取る!行くぞ!
確かに親会社からの天下りの上司には誰も何も言えなかった。帰ってくると少し肩身が狭かったけれど、でも誰かがちゃんと見てくれているのだなと、また少し誇らしかった。他の天下りの方とは明らかに距離感が違った。
それから10年以上過ぎても、ぎょうざの満洲に行く度にその上司を思い出す。勝手に注文されたダブル餃子定食を目を白黒させて食べるぼくを、先に食べ終わった上司はにこやかに見つめていた。
もっと食え、と。いいながら。
上司は今も存命。でも久しくご無沙汰。行田は遠い。
そのかわりにぼくは時々餃子の満州でダブル餃子定食を食べる。上司の顔を思い浮かべながら、ごぶさたして、スミマセンと謝りながら。
