思い出せば、母が氷川きよしと三橋美智也が好きで、私がよく利用するCDショップのオンラインショップで、それらのカセットテープを見つけだし、買ってやった事から始まる。

父が死んでから、何もする事が、なくなった母は、それまでもそうだったが、一日中こたつに座っていて何もしないでいました。

元々、神経が細やかで新たな試みなどとは縁のない生活を、ずっと送ってきたのです。

齢をとって、養命酒を飲んでみたら、という祖母の忠告を聞いた母だったが、養命酒といえども、お酒なのでアルコールがダメな母は、カッと熱くなるから、と言って続けなかったのです。

なんだか嫌なんだよ。

そう言ってやめてしまいました。

そんな母の楽しみは、花を育てる事と歌を聴くことが好きでした。

花を育てる仕事に付きたかったと言っていたのを思い出します。

自分で花の鉢の植え替えやなどができない、と言って私が代わりにすることになりました。

それが「ミイラ取りがミイラになった」状態で、自分でも気に入った花を育てるようになったのです。

その当時から私は働く事ができなかったので、すべては母からのお金でやってきたことです。

氷川きよしと三橋美智也のカセットテープだって、私がカセットテープを買ったのですが、お金は父の残した貯金を受け継いだものから払ったものです。

自分は動いただけです。

それでも母は毎日氷川きよしのカセットテープを聴いていました。

そのうち、カセットテープレコーダーが壊れてしまいました。

母は完全に機械音痴です。

簡単なラジカセでないと操作を覚えることさえできません。

その当時、まだ車で30分も行けば、大型ではないけど、品揃えの多い電機屋さんがありましたから、本当に安くて操作の簡単なラジカセを買ってきました。

しかし、今では、そういう機械は壊れるか、テープを痛めてしまうのです。

大手家電メーカーはとっくにラジカセの市場から手を引いていました。

どこの国で作った製品かも分からない商品は、やはり弱いのです。

そこで新しく国内大手メーカーのラジカセをネットで探して買い求めました。

だが、母には操作が難しいと言うのです。

簡単な操作も覚えられないのです。

母が子供の頃は、戦争中で勉強はせずに勤労奉仕といって、労働していたのです。

だから学習能力が開発されていません。
その上、気の小さな母は壊してしまうのが怖くて、操作を躊躇していて覚える気がないのです。

再び電機屋さんに行ってラジカセを買い替えることになりました。

母専用のラジカセは、再びテープを痛めてしまって、テープが伸びてしまったのです。

私が、そんなテープより新しくて同じ曲の入ったテープを買おうよ、と進言しましたが、これでいいよ、と言ってききません。

そのうちに歩いていて転んで怪我をした母は入院しました。
入院生活中に幻聴が聞こえるようになりました。

ついには嫁いだ妹が心配して家に来ても、玄関から中に入れようとしないことがありました。

妹にすれば、切ない事だったと思います。

その後、老人福祉施設を転々として、最終的には特別養護老人ホームに入居することになりました。

私と2人暮らしでした。
私には障害がありました。
精神障害。

障害者と認知症高齢者との2人暮らしでしたから、その当時、障害者と同居している場合に限って、要介護が低くても特別養護老人ホームの入居条件を満たすようになったのです。

その機に合わせて、少し離れた老人ホームが受け入れてくれる事になりました。


壊れれたラジカセと、国内メーカーのラジカセが残りました。

私は一日中音楽に囲まれていたいのでラジオが大好きです。

お勝手に立っている時もラジオを聴きたくて、冷蔵庫の上に置いてラジオを聴いています。




なぜか冷蔵庫の上のラジカセのラジオが家の中でいちばん感度が良くて、良い音でラジオを楽しめました。

そのラジカセが去年から、スイッチの具合が悪くなってきていて、強く押しても電源が入らない事が多々ありました。

先日、数時間家を空けていて、帰ったらラジオがついていました。
ああ、消し忘れたかな?

その時はそう思いましたが、その後も電源スイッチを入れなくても、勝手にラジオがついている事がありました。

オバケのように誰もスイッチを入れてないのに電源が入るのです。

「お釈迦だな」

覚悟して捨てることにしました。

数年ですが、冷蔵庫の上に置かれていたので、換気扇が油汚れするように、白いラジカセは薄く油汚れがついていました。

軽く雑巾で拭いて、おさらばすることにしました。



このラジカセはCDもついていて
始めは私のベッドの横にあって、早朝2時とか3時に起きてしまった時には気に入ったCDを聴いていましたが、節電のためにコンセントを抜き差ししていたら、中のプログラムが傷ついてしまったようで、最初にCDが使えなくなり、カセットは機械構造なので使っていないと故障してしまいます。

昔のビデオデッキもテープをスキャンして回転ヘッドにテープを密着するようになっているので、使っていないとすぐに壊ました。

これと同じで、このラジカセはもうラジオしか聴けなくなっていました。

ラジオの回路は定番のものなので、壊れることは珍しいのです。

軽く10年以上は使えるはずなのですが、スイッチの異常はこのラジカセの寿命を短くしてしまったようです。

もうじき、引っ越しですから新しく買う気はありません。

当分、ラジオなしのお勝手仕事が続きます。



ちなみに母は元気にしています。