

B:本土は、いまや無法地帯になっております。
A:そう。
B:いずれここも、時間の問題なのかもしれません。
A:うん、そうだろうね。
(沈黙)
A:ここ夕日がとても赤いんだね。
B:ええ、私がここに来てからのこの2週間は、
ずっとこのような調子でしてね。
A:子供の頃は、とんぼが飛んでいたよ、夕方に。
B:田舎はどこでしたっけ。
A:山形だよ。
B:ああ、すいません、あんまり場所はパッとしないのですけれど…。
さくらんぼが有名なんですよね。
A:みたいだね。
別にどうでもいいけれど。
それよりさ、
県の形が人の横顔みたいなんだよ。
横顔。
B:はぁ。
A:まぁいいか。
(沈黙)
東京での事件が終わったら、
どこか遠くに行きたいなぁ。
B:どこですか。
A:どこでもいいよ。
どこか遠くだよ。
B:…。
A:ここじゃ、もう生きてるのか死んでるのかも分からないし。
B:…。
A:ねぇ、どうして人間なんているんだろうね。
B:それは、きっと…。
(沈黙)
ごめんなさい、考えれば考えるほどよく分かりませんね。
A:私はね。
メディアは自然を大事にとか、
エコロジーとか言っているけれど、
最終的に自然のためを考えるのならば、
すべての人間が
自害することこそ究極のエコロジーだろうと思うんだよ。
B:はい。それも一理あるかもしれません。
しかし、人間には大切な物もありますし、
愛する家族や身内もいたりで、
そのためにも自然を大事にと…。
A:でもそれは人間の考えで、
自然のためではなく、
未来の自分のための自然の確保じゃないのかな?
B:うーん。
A:人間は、一人一人があまりにも自分だけの
幸せにどん欲すぎると思うんだ。
結婚だったり、
名誉だったり、
お金だったり。
A;そもそもお金って何だろう。
自然はね。完璧に出来ている。
だから自然はお金という存在が
生まれることを知っていたのかなと
思うんだよ。
もし知っていたとしたら、
戦争や、迫害、金融危機、
すべては完璧な自然が予期していた
ものなんじゃないかなって、
時々思うんだよ。
B;じゃあ今の我々の存在も、
東京で起きているあの事件も、
みんな自然の手の中で動いているだけと?
A:うん。
もしかしたらだよ。
そしたらこの先に何かが待っているような気がして
ならないんだ。
B:何がですか?
A:うん。私の単純な考えに過ぎないのだけれどね。
もっと偉い物理学者なんかは、
大変なことを言うかも知れないけれど。
でも、本当のところは誰も知らない。
だから、終末を待つしかないのかなって。
B:終末ですか?
それは人類崩壊とか?
A;否、それは分からない。
でも何か別の、
もっと我々の考えも超越した何かが起こるのかなって。
B:それは、ただの妄想ですよね。
A:うん。そう言ってしまえばそうだけれど。
君は量子力学を知っているかい?
B:すみません、勉強不足で。
A:じゃあまぁいいか。
長くなるし…。
じゃあ君は、カイロスタイムとクロノスタイムという概念を知っているかい。
B:すみません、それも存じません。
A:簡単に言えば、
カイロスタイムは主体的な時間でクロノスタイムは一般的な時間を指すんだよ。
つまり、人間がある一定の事柄を行っている際に
このどちらかの時間を経験しているんだよ。
B:うーん、なんとなく分かります。
ゲームに熱中しているとあっという間に休日が終わっていたりしますね。
しかしイヤな仕事をしていると、とても長く感じる。
A:まぁそんなとこです。
つまり人それぞれ時間の感覚というのは、
別々に存在している。
もしかするとそれが自然の中にもあるのじゃないかと思うんだよ。
B:また自然ですか。
A:うん。人間にだって、各々違う時間の感覚を持っているのであれば、
自然にだって時間の感覚があると思うんだ。
B:それで。
A:そもそもこの時間の感覚というのは、
意識のある生命体に起きる事象で、
木々や岩山には、理論的には時間認識など無いとは思う。
でも、春になれば、花を咲かせ、
夏になれば緑を芽吹かせる。
であるならば、
少なくともある程度の時間認識は持っていても
おかしくはないように思える。
B:それは天候に影響されるものじゃないのですか?
A:そうかもしれない。それでも日の光を認識し、
ある一定の時間が経過すれば、
変化をもたらすのだよ。
これは時間という存在を確実にインプットされていると思う。
B:話の途中、すみません…。
あのー、あなたの肩から血が出ていませんか?
A:あぁ、やっぱり興味ないのねこういう話。
B:いえ、そういうことではないのですが、
先程から垂れ流しなもので気になって仕方がないので。
A;うん、これはね。東京で。
B:銃弾、とかですか。
A;たぶんそうだろうけれど、別にそんなに痛いってほどでもないし。
B;でも手当はなさった方が…、
奥に医務室もありますし、
軍医の方もいらっしゃいますよ。
A:なんで?そんなに気になる?本人が別に良いって言ってるじゃないか。
B:ですが…。
A:君はあれだな。風邪の時に体温計をすごく気にする人だね。
B:それは、熱がどれくらいあるか気になりますからね。
A:で?
B:で?と言いますと?
A:知ってどうするの?
ああこのくらいかと納得して終わりかね。
B:いいえ、38度を超えたら、座薬をしたりとか
解熱剤を投与しますね。
A:はぁあ。そう。私の場合は、別に具合が悪ければ悪いし、
それはそのまま任せるよ。
B:なんだか、段々あなたがよく分からなくなりました。
A:だろうね。いつもこんな感じだよ。
あ、ほら観てよ、もう東京の方があんなに真っ赤。
B:そうですね。もうこの風景にも僕は慣れましたよ。
A:なんだったんだろうね、高度成長期とか、
受験戦争とか、就職氷河期とか。
B:こんなことになるなんて誰も思っていませんでしたからね。
A:本当にそうかな。
誰しもがどこかで考えたりはしていたんじゃないのかな。
B;少なくとも僕は考えていませんでしたよ。
A;ふふふ。そう。
なんだか私、目がシパシパしてきたよ。
B:やっぱり、医務室に。
A:違う違う、ただ眠いだけ。
B:やっぱり僕、医務室に行って薬取ってきますよ。
破傷風にでもなっていたら大変ですし。
ちょっと待っててください。
A:…。
A:あぁ、眠いなぁ。
眠ってる時って、みんなその場にいるんだよね。
でも、当然だけれど、
その場にいない感覚なんだよな。
本当は、私もここにはいないのかも。
A:…。
A:赤いなぁ。
もうそろそろ夜か。