アップルのスティーブ・ジョブズ会長がこの世を去り、投資家と消費者は大きな疑問を抱いている。それは、創業者でかつデザイン面で先見の明があったジョブズ氏なしにアップルが革新的な製品を世に送り出し続けられるのだろうか、という疑問だ。答えは、消費者にはなじみの薄い、あるアップル幹部にあるかもしれない。ジョナサン・アイブ氏だ。 アイブ氏はアップルで目立たない存在のデザイン責任者だ。彼を知る人は彼のことを「スティーブ(故ジョッブズ氏)と頭脳を共有する」人物だと表現している。アイブ氏が1996年に同社のデザインチームの責任者になって以降、同氏と彼のチームは製品の外観や感触の開発を担当し、他社製品との差別化に寄与した。 ジョブズ氏が亡くなったことで、アップルにおけるアイブ氏の役割はより重要になりそうだ。アップルはコンピューター、音楽プレーヤー、スマートフォン(多機能携帯電話)、それにタブレット型端末という、わずか4つの商品ラインで、今年度1000億ドル(約7兆6600億円)に達するとみられている年間売上高の大部分を稼ぐ。つまり、アップルは製品を頻繁に入れ替えることに依存しており、それによって同社の製品に対する消費者の興奮を生み出している。 これまでのところ、アイブ氏がエレガントなデザインを強調してきたことにより、アップル製品はステータスシンボルとなり、そして消費者が望むものに変わっている。アイブ氏のデザインしたiPad(アイパッド)は、アルミのボディの上に1枚のガラスが置かれたようなシンプルなデザインで、その後のタブレット型パソコン市場の方向を定めた。ライバルが強力な対抗商品を出そうとしているにもかかわらず、iPadの最新型は世界のタブレット型端末市場のおよそ70%を占めている。 洗練されたマーケティングに支えられ、アイブ氏がデザインした製品は目を見張るほどの成長の推進力となり、アップルを世界で最も市場価値の高いIT企業にした。流線型のiPhone(アイフォーン)がアップル最大の収入源になった一方で、パソコンのMac(マック)はパソコン市場で最速の成長を遂げている。また2001年に発売され、アップル再生の立役者となった音楽プレーヤーのiPod(アイポッド)は消費者のデジタル音楽人気を高めた。 アイブ氏がアップルで担う役割は非常に重要だ。このため、同氏は最高経営責任者(=CEO、現在はティム・クック氏)の直属になっている。同氏がCEO直属であることは、ジョブズ氏の時代に大切にされてきたデザインと見た目の美しさをアップルが重視していることを浮き彫りにしている。 今回この記事を執筆するにあたってアップルにアイブ氏のコメントを依頼したが、拒否された。また同氏にコメントを求める電子メールを送ったが、回答はない。 アイブ氏は1967年にロンドンで生まれ、ノーザンブリア大学でデザインを勉強し、英国のデザイン会社「タンジェリン」を共同で創業した。90年代初めにアップルに助言を行っていた会社だ。アイブ氏は92年にアップルに引き抜かれ、その後すぐに工業デザインチームの責任者になった。 同氏はアップル入社以降、ジョブズ氏など他の幹部が同社の表の顔を務める中で、裏方で仕事をしてきた。しかし、同氏の努力は並大抵ではなかった。 アイブ氏のデザインチームは、かつてグレーやベージュの箱形ばかりだったアップル製品の再生を先頭に立って行った。彼のデザインした製品の中で最も注目を集めたものとしては、カラフルなパソコンとして知られるiMac(アイマック)や、ガラスとアルミボディが特徴の現行のiPhoneがある。 アイブ氏のデザインした製品は、ドイツの工業デザイナー、ディーター・ラムス氏のデザインした製品とよく比較される。ラムス氏は60年代に独家電メーカー、ブラウンの製品、例えば計算機やラジオのデザインを手掛けた人物だ。それらの製品は、アイブ氏の手掛ける製品と同様、シンプルかつエレガントで使いやすい。 IDCのアナリスト、ウィリアム・ストフェガ氏は、「彼らは『製品をやりすぎない、複雑にしない』というデザイン哲学を共有している」と指摘する。 アイブ氏の努力は、アップルのコンピューターや携帯電話を芸術作品に変えた。ニューヨーク近代美術館のウェブサイトによると、アイブ氏のデザインした6つの製品が同美術館に収蔵されており、初代iPodもその1つだ。
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