「転職したいんやけどなあ」予感が私は、「やっぱり来た」と思い
転職、またしたいんだな……ここ数日間の夫の様子を観察していると、嫌でも察しがつきます。これまで何度もこういうことがありました。私にその決意を打ち明けたい時は、いつもこんな風に思いつめた表情をするのです。
転職するのは、建設関係の会社の営業職ばかり。彼なりのこだわりがあるようで、まったく別の職種に手を出すということはありませんでした。
友人に話すと「またなの?」と呆れられます。「もう別れた方がいいよ」なんて無責任に言われたりするのも気分が悪く、私はだんだん誰にも彼の転職を打ち明けないようになっていました。
真面目で慎重な夫は、今までトラブルに巻き込まれたことも、ミスを犯したこともありません。順調に勤めていると思っても、1年ほどすると、なぜか転職したいと言いはじめるのです。
「ええトシしてすぐに辞めんとって。みんな合わへんと思っても我慢して働いてるやんか。こんなに転職ばっかりする男がどこにおる」私がなじると、彼はうなだれて黙ってしまいます。大きな体がすごく小さく見えました。
だけど、私は結局彼を許してきたのです。それは、彼の転職が、決して「逃げ」だと思わなかったから。彼が自分のやりたいことを必死で探し続け、葛藤しているのを知っていたからです。
彼は意外にも「職人になりたい」と言いました。営業ではなく職人になりたい──こんなの、今までなかったことです。私はやっと、彼が何かをみつけたのだと思いました。
考えてみれば、彼は職人に向いているのかもしれません。大工をしている彼の父親に似て、寡黙で誠実だし、力仕事も細かい作業もいとわないし、大きな手で器用に何でもこなしてしまう。彼は、職人にふさわしい気質を父親からしっかりと受け継いでいたのです。
「うん、そうやね。私もあなたは職人に向いてると思う。転職、応援するよ」私の言葉に、彼は嬉しそうに目を細め、力強くうなずきました。
1ヶ月に渡る転職活動の末、彼は隣市の小さな建設会社に、施工管理担当者として採用されました。彼の希望通り、職人としての再スタートが決まったのです。
他の会社でも面接も無事にいき、数社から内定をもらいました。私は、彼の今までの転職歴はマイナスになると思っていたのですが、いろんな現場を見て勉強していること、簡単な施工ならすぐできるくらいの技術をすでに身につけていたこと、そして彼の熱意がプラスに評価されたようです。新しい会社でも、能力は正当に評価され、彼はどんどん仕事を覚えていきました。1年後には主任に抜擢されるまでになったのです。
夫が遣り甲斐をもって働いているのは、妻としても嬉しいものです。彼は今、本当にイキイキしています。前のように毎晩遅くまで休日返上で出勤することもなくなり、家族で過ごす時間が増えました。あれから3年が経ちますが、職人に転職したのは正解だったと、確信しています。
転職するのは、建設関係の会社の営業職ばかり。彼なりのこだわりがあるようで、まったく別の職種に手を出すということはありませんでした。
友人に話すと「またなの?」と呆れられます。「もう別れた方がいいよ」なんて無責任に言われたりするのも気分が悪く、私はだんだん誰にも彼の転職を打ち明けないようになっていました。
真面目で慎重な夫は、今までトラブルに巻き込まれたことも、ミスを犯したこともありません。順調に勤めていると思っても、1年ほどすると、なぜか転職したいと言いはじめるのです。
「ええトシしてすぐに辞めんとって。みんな合わへんと思っても我慢して働いてるやんか。こんなに転職ばっかりする男がどこにおる」私がなじると、彼はうなだれて黙ってしまいます。大きな体がすごく小さく見えました。
だけど、私は結局彼を許してきたのです。それは、彼の転職が、決して「逃げ」だと思わなかったから。彼が自分のやりたいことを必死で探し続け、葛藤しているのを知っていたからです。
彼は意外にも「職人になりたい」と言いました。営業ではなく職人になりたい──こんなの、今までなかったことです。私はやっと、彼が何かをみつけたのだと思いました。
考えてみれば、彼は職人に向いているのかもしれません。大工をしている彼の父親に似て、寡黙で誠実だし、力仕事も細かい作業もいとわないし、大きな手で器用に何でもこなしてしまう。彼は、職人にふさわしい気質を父親からしっかりと受け継いでいたのです。
「うん、そうやね。私もあなたは職人に向いてると思う。転職、応援するよ」私の言葉に、彼は嬉しそうに目を細め、力強くうなずきました。
1ヶ月に渡る転職活動の末、彼は隣市の小さな建設会社に、施工管理担当者として採用されました。彼の希望通り、職人としての再スタートが決まったのです。
他の会社でも面接も無事にいき、数社から内定をもらいました。私は、彼の今までの転職歴はマイナスになると思っていたのですが、いろんな現場を見て勉強していること、簡単な施工ならすぐできるくらいの技術をすでに身につけていたこと、そして彼の熱意がプラスに評価されたようです。新しい会社でも、能力は正当に評価され、彼はどんどん仕事を覚えていきました。1年後には主任に抜擢されるまでになったのです。
夫が遣り甲斐をもって働いているのは、妻としても嬉しいものです。彼は今、本当にイキイキしています。前のように毎晩遅くまで休日返上で出勤することもなくなり、家族で過ごす時間が増えました。あれから3年が経ちますが、職人に転職したのは正解だったと、確信しています。