俺と同級生のMKは高校の体育館にいた。
入試が終わりまだ合格発表前だが、高校のバスケ部監督から
練習に合流するよう誘われていたのだ。

「こらぁ!なにやってんだ!そこでルーズボール負けてどうすんだ!」

監督の厳しい声が体育館に響いている。
3年生が卒業し、新チームでの練習試合が目の前で始まっていた。

「おい、ちょっと俺たちここにきてどうすんのかな」と俺がMKに言うと

「うん。。俺もわからんが、、、そのうち監督からなんか言われるんじゃねーか?。。。」と、言葉少なに語った。

眼差しの向こうにはコートを走り回る10人の高校生。俺たち二人はいかにも小さく、頼りなさげにその場にたたずむだけだった。

「ピー!!ハーフタイム!!」
練習試合の前半が終わった。厚い眼鏡の奥にするどい眼球が俺たち二人に向けられた。

「あっ。。監督こっち向いた。。」と思う間もなくこっちに歩いてくるではないか。

「おう、今日はよく来たな。」
笑っているのは顔だけだ。鋭い眼球に変化はない。
「運動着持ってきたのか?」との問いに
遅れもなく
「はいっ!!、持ってきましたっ!」同時に答えた。

「なら部室で着替えてくるといい。今ハーフタイムだから少し体動かしたほうがいいな。おーい!マネージャー!!この二人に部室教えてやってくれ」

タタタタタタ、と小走りに近づいてきた女子マネージャーが
「そこの二人。。あら、新入生ね♪こっちよ。あの入口から階段あがって2階が男子の部室になってるわ。残り7分しかないからソッコーで着替えてきなさいね?」

2階に上がってびっくりした。。。。

「くっさ!!オエー!!!!!」

 約20畳ほどの部室の南側と東側にはパイプ椅子が無造作に置かれ、北側は壁、西側にロッカーがあった。東壁と西壁に洗濯用ロープが結ばれ。白、赤、紺色の練習用Tシャツ、トランクス。。。ソックスがスルメの一夜干しのように干されていた。
 パイプ椅子にもところ狭しとジャージやらパンツやらソックスやらジーンズが脱ぎ捨てられており、女人禁断の部屋であることを物語る。男の匂いが部屋中立ち込め高校生とは何者ぞ・・・と思わずにはいられなかった。。

それはさておき、俺たちはそそくさジャージに着替え下におりていった。

「あんたたち、遅いわよ!」
下で待っていたマネージャーに一発いただいた。

「エンドラインで先輩のボール拾い。」

「ハイッ!!」

タンタン・・シュッ・・・・
軽快なステップ音のあとに指先からボールが離れ放物線を描いて「スパッ!」と音を立ててゴールに吸い込まれる。
そのボールをコートに落ちる前にキャッチしなければならない。
言うのは簡単だが・・・・想像以上にキツイ。。。。

「ピー!!!!」と後半戦ゲーム開始3分前を知らせるホイッスルが鳴った。

「よーし、集まれ」と監督が叫ぶと
「集合!」とマネージャーが声を出し作戦盤を監督に開いて渡す。

選手が監督の元に集まってきた。

「フォーメーションをちょっと変える。ハイポストからローポストに入れるとき一度フォワードに返してからハイポストに入れると見せかけてローポストに入れる。わかったな。いけっ。」

「はいっ!」
「よしっ、いくぞっ」
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このチームは県大会新人戦で準優勝の実績。
練習試合は楽勝には見えるが監督も選手も手を抜かない。
チームの課題を見つけては修正の繰り返し。。。

チームジャージと違う二人はベンチの端に座らせられ
固唾を飲んで見守るだけだった。

後半戦残り3分を切ったところでアウトオブバウンズ。
監督がオフィシャルに近寄り選手交代を告げた。

「オイ、そこの二人、出ろ」

「ん・・・・???え。。俺たちか???」
と、もぞもぞしてると

「バスケットしに来たんだろ、出てみろ」と
監督が完全にこっちを向いて話している。

キャプテンのK先輩が
「二人こっちにこい。デフェンスは2-1ー2のゾーンだ。
 二人は前線をやってくれ。NKは右、もうひとりは左。
 ボールはチェックだけ、深追いせずシュートは打たせていい」
「じゃ、いくぞ!」

約3分間。どう動いてどう走ったか記憶にない。
ターンオーバーにくっついてコート中をただただ走り回ってる感覚。
ドリブル、パス、シュート。。その速さ。どれをとっても中学の比ではない。

「ピー!!!!タイムアップ!」

試合が終わり、コートの中央で膝に手をおき、息切れしてゼエゼエ言ってる二人に監督が近づいてきた。

「合格発表まだだが二人共合格してるぞ。NKは370点、MKは320点だ。
明日から毎日練習に来い。楽しみにしてるぞ」

「はいっ」放心状態の二人は返事するのが精一杯だった。

-第二部に続く-
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