短歌に限らず、文学作品の鑑賞というのは、その作品が成立
した作者や背景を知らずに作品自体を味わうのが本来の形
なのかもしれません。
しかし、別の形の鑑賞の仕方があります。それは、作者の
人物像や作品が成立した背景を探ったり、同じ作者の別の
作品や他の人の作品と比較したりする方法です。
この本は、歌人や作品に対する筆者自身の主観的な印象を
記しながら、作品の背景なども踏まえて鑑賞しています。
筆者が選んだ100首の短歌は「恋・愛」「青春」「命と病」
「家族・友人」など10章のテーマに分けられていて、
近代短歌の教科書のようになっています。
しかし、本書は単に教科書に留まらず、選ばれた短歌と
その鑑賞文を読んだ時、自分の様々な人生の場面、あるいは、
日常の生活感覚が蘇り、ああ、わかるなぁというところが
幾つもありました。
「再び言うが、それらを知らなくとも今の世界で生きていく
ことはできる。しかし、知っているのと知らないのとでは、
現実の世界を感受する豊かさにおいて圧倒的な違いがある
ことは言うまでもない。」(「はじめに」から引用)