前回の記事『計算』でトランプ裁判劇場を書いた数日後に、ハーヴェイ・ワインスタインの再審決定のニュースが流れた。

 

 

証言だけで証拠がない性犯罪の容疑者とされた二人の大物の共通点をまとめておきたい。

 

昨日のトランプの裁判も、主要メディアはトップで報じていた。昨日の裁判ではポルノ女優ストーミー・ダニエルズの弁護士が2016年10月の顛末をコミカルに証言した。

 

ストーミー・ダニエルズがトランプを脅迫して金をぼったくろうと考えたきっかけは、大統領選挙直前の2016年10月7日に2005年のトランプの発言「女性器を同意なくつかむ」が録音されたテープのリークだったが、陪審員がこのテープを見ることはないらしい。

そのテープリーク直後にダニエルズの代理人がタブロイド誌に12万ドルでトランプと性交渉を持った話を売り込もうとしたが、タブロイド誌は乗り気ではなく、トランプ側に直接掛け合うよう促した。ダニエルズ側は1万ドル値上げして13万ドル支払えとトランプ側に迫った。

トランプは2016年10月14日の選挙演説で「あの話は全くのフィクションだ。100%でっち上げで、そんなことは起きなかった。起きるわけがない」と言った。

13万ドルは2千万円。ダニエルズのマネージャーは代理人に「こんな楽な仕事はない」とおだて、トランプの大統領選に致命的なダメージを与えるはずだからと言った。トランプ側は選挙終了後までこの話を表に出さないという条件で、ダニエルズ側に13万ドル支払った。

 

そのhush moneyを隠蔽しようとしたとして、トランプは34の重罪に問われている。

ここで、トランプが金を払ったのはダニエルズの話が本当だからだ、と考えるか否かは、トランプという人物をどこまで知っていて、どう評価しているかによる。それはすなわち、河童を知っているか知らない(ふりをしている)かと同じ意味である。

 

ダニエルズに金を払わず、公に証言されたとしても、トランプは大統領選に勝っていただろう。トランプが要求された通りの金額を払ったのは、見え透いた言いがかりでぼったくりを企んだポルノ女優への軽蔑に他ならない。

 

MeToo運動で日頃の逆恨みを晴らしている女性たちは、「トランプって下品よねえ」と言い募り、ポルノ女優とプレイボーイモデルのセックススキャンダルがもっと大々的になれば、ヒラリーが勝っていただろうに、と恥ずかしげもなく悔しがったのかもしれない。MeToo運動のきっかけは、トランプ政権最初の年2017年に持ち上がった1990年代のワインスタインのレイプ疑惑だった。「女性は弱者」という固定観念を武器にする女性たちは、強い男性に対する恐怖から生じる嫌悪感を持っている。弱い男性はここぞとばかりにそういう女性の味方をする。

 

 

Amazon Prime Videoで観られるこの映画は、タイトル自体が、女性たちの証言だけでワインスタインが23年の懲役判決を受けた事実を明示している。ニューヨークタイムズの若い女性記者二人の取材の模様をリアルに再現することで、「女性は弱者」という固定観念がワインスタインを証拠もなしに断罪した主因だと見えてくる。売れない女優がハリウッドの大物プロデューサーに性的虐待された、強姦された、と告発して、示談金をぼったくり、自分を売ってくれないことへの逆恨みを晴らすなんて絶対にあり得ないと思う人は簡単にMeTooに騙される。

 

1990年代にワインスタインにレイプされたと2017年になって言い始めた理由は何か。

 

 

ワインスタインが2017年にプロデュースしたこの映画は、告発後に制作が中断し、スコセッシがプロデューサーになり、2019年にやっと完成した。currentには電流と現在という二重の意味が込められている。

 

Amazon Prime Videoで日本ではなぜか条件付きでしか観られないが、邦題にゲンナリするとともに、その説明にも誰がワインスタインを追い落としたかったのかが表れていて、苦笑する。

 

 

この映画を素直に最後まできちんと鑑賞すれば、エジソンを「傲慢な男だった」と書くことはできないはずなので、むしろ、ワインスタインがこの映画に全力を注いでいた理由をはっきりと読みとれたためにエジソンをこき下ろさずにはいられなかったんだな、とわかる。オッペンハイマーを「この男」呼ばわりしたのと同じ河童の逆恨み。

 

トランプを本気でこき下ろす人々は、ワインスタインとエジソンもこき下ろす。現在の戦争はそういう人々が起こしている。

 

「こういう女性たちがハーヴェイ・ワインスタインに対して証言した」という見出し通り、2020年のこの記事を読んで、ワインスタインを断罪した人はよほど鈍感で恥を知らない弱者だけ。

 

 

<追記>
前回の記事『計算』を書いた翌日に歴史的円弱、この記事『強弱』を書いた翌日に自虐的円介入ニュースが流れたのは面白い。
 
ドル札はコンパクトで紙の手触りも良いと前から思っている。
 
日本はあと8回、同じ規模の介入が可能らしい。