【小説】ささやかな逃避行(プロフィール【大輔】) | ぐっとまっくすのブログ

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少しでも勉強のお役に立てれば幸いです。

彼の名前は大輔。
子供の頃から彼は、いわゆるごく普通の少年だった。
特出する才能もなく、しかし周囲から疎外されるようなこともなかった。

学校では、彼の存在は穏やかな湖面のように、静かで波立たないものだった。
学業成績はクラスのちょうど真ん中を保ち、運動会ではリレーのアンカーを任されることもなければ、最後尾を走ることもなかった。
彼は、その均衡を保つ才能においては、誰にも負けないと自嘲気味に思うことがあった。

友人は常に一定数いたが、それはいつも同じような顔ぶれで、大勢で騒ぐタイプの集まりではなかった。
彼らは映画館の隅っこで静かに話を交わすか、誰もが忙しいときは単独行動を選んだ。大輔にとって、それは心地良い日常だった。
静かで、波風が立つことのない平穏な海のような。

家庭環境もまた、特筆するようなものではなかった。
両親は共働きで忙しく、それでいて家庭は温かく、夕食の時間はいつも家族が一堂に会して、日々の出来事を共有する和やかなものだった。
彼はそんなごく普通の幸せを当たり前のように享受してきた。

大人になるにつれて、その穏やかな日常がどれほど貴重であるかを理解し始めていた。

しかし、心の奥底では、彼には常にひとつの空虚感があった。
それは、何か特別なことを成し遂げたいという望みではなく、ただ、もっと深く、もっと熱烈に人生を感じたいという漠然とした渇望だった。

その渇望は彼を駆り立て、時には無意味な冒険に身を投じさせた。
大学時代のある夏、友人たちとの旅行で急に訪れた嵐の中、山頂で雷に打たれそうになったことがある。
そのときの恐怖と興奮が、彼の中の何かを目覚めさせた。

社会人になり、婚約し、父親になるという人生の大きな節目を経験しても、大輔の心の中のその空虚感は埋まることはなかった。

そんなある日、偶然出会ったのが彼女だった。

彼女は、まるで彼の心にひそむ無色の情熱に色を付ける画家のようだった。彼女との逢瀬は、日常に流れる平凡な時間を貴重なものへと変えていった。

それが今、この「ささやかな逃避行」に繋がるのだった。