長野さんとお付き合いさせていただくようになって早や20年になる。途中5年ほどNYにいる間はご無沙汰していたが、帰国後は節目節目に伺い、その素晴らしい鮨を堪能させていただいている。

 南青山のキラー通り沿い。開店当時は通りを挟んで尾崎さん主宰の伝説のバーRadio、あたりには全盛期?のスキーショップジローがある中、ひっそりとしかしなんとも存在感ある佇まいだったそのお店は社会人駆け出しの若造をして、‘これはただならぬ店構えだなぁと思わせるのに十二分だった。 90年代前半のある日、意を決して入店。まだまだ借金して遊ぶくらいの飛んでもなく生意気で何もわからん小僧に丁寧に寿司を教えてくれ、今思えばこんくらいで勘弁してやるよっていう価格で楽しませてくれたんだなぁと思う。 でも本当に気持ちのいい寿司だった。 

 2001のあの日を経て帰国してしばらく経った頃、ふと食べたくなった長野さんの寿司。
ところが電話しても電話してもつながらない。 予約が取れない。 電話するといつも耳が吹っ飛びそうになるくらい元気な声で電話に出る小僧さんが この世の終わりのような声で毎回毎回‘申し訳ございませんっ。またお願いします~~~~・・・‘そう・・・とんでもない人気店になっていたのだ。  今や東京いや日本でも有数の有名店になっている。

 それでもやはりここへ行きたい自分は予約を取る。いつもここに行くときには、tensionを上げ気合いを入れる。 店に入る。 ‘ラッ‘と扉を開けると・・ いいらっしゃいませぇっっっっっ! 140dBくらいは出てるだろうとんでもない元気な声。ういっす!と思わずいかりや長介になって(ふるっ)着席すると・・・‘いらっしゃいませぇ。お待ちしておりましたぁご無沙汰しております‘と まあああんめんの笑みで丸坊主の長野さんが迎えてくれる。一緒に来る人は大体このウェルカムだけで圧倒され、長野ワールドに心をわしづかみされていく。

 生ビールを頼んで、寛いでいると このお店のまさにお約束の一言 ‘まずは一貫握らせてください。本日は青森県は戸井から・・生の本マグロでございます。 どうぞっ‘ 産地はその日によっていろいろだが、共通するのはその季節季節でとにかくサイッコーの中トロを供してくれること。 これがまたすきっ腹にむちゃくちゃ染みる。 脂がトロっとしてて舌の上でとけちゃ~~~う・・・みたいなそんな味わいではなく、当然脂は素晴らしい香りだが、マグロ独特の酸味もわっずかに感じられる素晴らしい香りの中トロだ。
 
その後は、長野さんが選び抜いた日本各地の旬の産地からの素晴らしい海の幸がこれまた素晴らしい仕事をされて次々に繰り出されてくる。 近頃では 食べ物やではそれが何かだけではなく、どこどこで取れた~~です、みたいな紹介の仕方はポピュラーになったが、ここのお店では開店以来ずっとそう。かなり早い段階からそうした紹介の仕方をしていたのではないだろうか?
そしてこれがまた、独特の長野節。 産地の紹介のあとの独特のため、九州は~~~から参りました・・・・~~でございます。みたいな紹介の仕方がまた楽しい。(賛否両論あるのは承知の上)
 こうしたお造り・焼き物をビールからの日本酒で堪能するのがいつものパターン。ワイン・しゅわしゅわでいただくこともあるが、最近は圧倒的に日本酒だ。
酒は一般にはなかなか手に入らない山形の地酒。純米・吟醸・大吟醸と素晴らしいハーモニーを奏でてくれる。 長野さんの酒蔵さんとの信頼関係のたまものだ。 今日こそは我慢と思っても、気づくと一通り全部飲んでしまっている。 水の如くつるつると入っていき、これがまた海の幸と合うんだよなぁ・・・・ 危ない危ない。
 
 お店の方も長野さんも、客同士が話で盛り上がっているときにはあえて寡黙に、声をかけると独特のチャーミングな人柄から楽しい会話や話ネタを次々に繰り出してくるという阿吽の呼吸を心得ている。長野さんやお店の方だけでなく、この店は見知らぬ客同士でも意気投合して話が盛り上がることがしばしば。 店の持つ艶っぽい雰囲気のせいなのか、来ている客の雰囲気がそうなのかどちらが先かわからないが、ここで出会うほかのお客さんは華やかで楽しい方々ばかりだ。 うかうかしていると握りに行く前に腹がいっぱいになってしまうが、これも彼のサービス精神のたまもの。今日はこれがうまい、これもうまい、とやってると握りの前に・・・いかんいかん。寿司屋に来て握り食わねぇ手はねぇだろうと、握りへ進む。。。。 
 
 ここのシャリは米そのもののよい香りをまるーい感じのよい酢でさらに立て、見事な香りに仕上がっている。しかも好きなタイプの固めのしゃり。これがそれぞれのネタと絡み合うと それはそれは楽しい味わいになる。そうそう、こちらの山葵はいつも感心するのだが、見事な天城の複数年もの。山葵だけで酒が飲めるほどの深い味わい。 いつも寿司で泣かされ山葵で泣かされ・・・酒はさらに進んでしまう。

 握りも進むと頃合いを見て漬物やお菓子のようなきめの細かい素晴らしい味わいの(甘いだけじゃないのよねぇ)玉子が登場する。 もううまくてうまくて、ほんとはこれだけ1枚フルに食いたいくらいだけど・・・ 一切れだからうまいんだろうなぁと我慢我慢。

 そして最後は塩とたれのアナゴ締めが定番。最後のたれアナゴはもうこれこそがとろけるほどの歯ざわり・口触り。 もはや官能的でさえあるこのたれアナゴにて本日は打ち止め。
最後はノリのお椀で締めて 大満足。 長野さんからはいつもの締めの一言。‘今日も気持ちよくたくさん召し上がっていただきましてありがとうございますっ!‘  いやいや気持ちよく元気にしていただいているのはこちらですからっ!   うまいだけでなく、訪れる人を元気にハッピーにさせてくれる寿司屋さん、南青山の珠玉の鮨屋の名は

 海味(うみ)。 

 これからもずっと付き合っていきたい鮨屋だ。