【作品情報】


『アリス・イン・ワンダーランド』の続編。キャストは続投した。



【あらすじ】


父の形見ワンダー号での大航海から帰郷した22歳のアリス(ミア・ワシコウスカ)は、母と暮らす家と引き換えに船を渡すよう迫られる。青い蝶アブソレム(アラン・リックマン)に導かれ、再びアンダーランドに。殺されたはずの家族を待って衰弱していく親友マッドハッター(ジョニー・デップ)を救うため、時間の番人タイム(サシャ・バロン・コーエン)から時を操るクロノスフィアを盗んで過去へ遡る。



【感想】


19歳になったアリスの自立を大胆な解釈と美しいCGで描き、童話の実写化ブームを牽引した大ヒット作の続編です。公言する通り続編モノが嫌いだからなのか、赤の女王役のヘレナ・ボナム=カーターと破局したからなのか、ティム・バートン監督は製作に回り、『ザ・マペッツ』シリーズのジェームズ・ボビン監督が抜擢。ティム・バートン監督独特の世界観を引き継ぎつつ、良くも悪くもディズニーらしくわかりやすい映画に仕上がりました。


本作は「ワンダーランドはアリスの心の中」という説を強調し(アリスが精神病患者として入院させられるシーンまで!)、アリスは鏡、つまり自身を投影するものを通ってワンダーランドことアンダーランドに。そこの人々はアリスの心の一部なので、アリスが亡き父の船を手放したくないと思えば、ハッターが死んだはずの父との思い出の品に固執しますし(当時のジョニー・デップと重ね合わせてしまって辛かったです)、アリスがその状況をどうにかしたいと思えば、白の女王がハッターを助けるよう頼んできます。


また、アリスが愛とは手放さないことだと信じているため、アンダーランドの人々は手放さないことで愛を示そうとします。アリスはワンダー号を手放さず、ハッターはみんなから否定されても家族の生の可能性を手放さず、みんなは拒絶されてもハッターを見放さず、双子はいつでも離れません。終盤ではハッターの父が息子の帽子を手放さなかったことが明らかになり、白の女王は命を懸けて赤の女王から離れないことを選びます。


時間が止まってアンダーランド(=アリスの心)が崩壊し、時が流れるからこそ過去を懐かしむことができるのだと知るアリス。「毎日、毎時間、毎分、毎秒が贈り物」なのにタイムに贈り物を要求していたヴィラン赤の女王も、最近のディズニーのセオリーで悲しい過去とその克服が描かれます。変人奇人をこよなく愛するティム・バートン監督に作り上げられたキャラクターが辿り着くには、きれいすぎる答えな気もしますが(それにしてもヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエンのカップルにアン・ハサウェイの並びは『レ・ミゼラブル』すぎます笑)。


もちろん過去にこだわるのは悪いことでなく、過去に囚われて未来を考えないアリスによる時間の旅は行き当たりばったりなものでしたが、過去に船を操縦していたおかげでクロノスフィアを動かせましたし、何よりも父との思い出があります。未来から過去を懐かしむこともまた愛なのだと気付き、父が遺した時計を手放すアリス。彼女に応え、母も家を手放します。


アリスの言う通り、時間は残酷にも愛する人を奪います。本作のスタッフやキャストも、奪われました。アブソレム役のアラン・リックマンを。アリスの父の時計がタイムに贈られたように、本作はアラン・リックマンに捧げられます。才能豊かなスタッフやキャストはこれからも新しい映画を作っていくでしょう。でも、いえ、だからこそ、彼らもわたしたちもアラン・リックマンを懐かしみ、愛し続けることができるのです。彼もこの極彩色の贈り物を受け取り、あの渋い笑い声を天国に響かせていることでしょう。ご冥福をお祈りします。