【作品情報】


『それでも夜は明ける』で第86回アカデミー賞助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ主演作。第85回ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞を受賞した。



【あらすじ】


1986年、サンタクルーズのビーチに建てられたミラーハウスに迷い込んだアデレード(マディソン・カリー)は、自分とそっくりな少女と出会ったショックのせいかしばらく話さなくなった。現在、大人に成長した彼女(ルピタ・ニョンゴ)は夫や2人の子どもたちと共にサンタクルーズのビーチハウスを訪れるが、トラウマを呼び起こすように奇妙な出来事が連続する。そこにアデレード一家と酷似した4人が現れ、テザードと名乗って攻撃するのだった。



【感想】


デビュー作『ゲット・アウト』で第90回アカデミー賞脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督最新作で、前作に引き続いて現在のアメリカに対する批判をユニークなホラー映画に仕上げています。黒人の血を引く彼は裕福な家庭に生まれ、白人たちの暮らす地区に自宅がありましたが、帰り道を歩いているだけで警察官から泥棒ではないかと疑われる恐怖を味わい続け、それを『ゲット・アウト』の冒頭で描いていました。


また、ジョーダン・ピール監督が幼い頃、アメリカでMole People(もぐら人間)と呼ばれるトンネル暮らしのホームレスが急増したそうです。その中には彼と同じ肌の色や年齢層の子どもたちが多く、ジョーダン・ピール監督は生まれた家庭が違えば彼らと立場が逆だったのではないかと慄いたことを複数のインタビューで語っています。本作ではバカンスでビーチハウスを訪れるほど余裕のある人々が地下トンネルで貧困を強いられている〝アス〟に生活を奪われそうになる様を通し、現代アメリカの経済格差を描いているのです。


さらに見事なのが、テザードがただのそっくりさんではなくクローンだったことでしょう。地上の人間とそのクローンは全く同じ遺伝子を有しているため、資質にも差がないはずです。しかし、クローンは言語能力を始めとする素養が著しく少なく、人の才が生まれ育った環境に左右されることを証明しています。それは生まれ育った環境に恵まれなかった人々、例えばテザードにとって希望となるでしょう。一方、恵まれた人々、例えば本作を鑑賞する余裕のある人々の多くにとっては、本作はホラー映画となります。スクリーンにアス(わたしたち、そしてU.S.〈アメリカ合衆国〉)を映し出す本作は、鑑賞者を自身と向き合わせるミラーハウスなのです。