彼女に教えてもらったある本、素敵な散文集といっていいだろう。世界中の人に読まれているベストセラーでありながら、実際に読んでみようと思ったのは彼女との会話の中で出てきたからだ。

 

僕はその本のことをある文章に書いてネット上で見えるようにしておいた。それを見た彼女の感想は、そんなにこむずかしく考えないで簡単な言葉で書けばいいのにというようなものだった。嬉しい感想とは思わなかったが、もっともだと思った。

 

僕は仕事がら、簡単なことを難しくいってしまうようなところがあるのだが、彼女は思った通りのことをそのまま言葉にできる人だった。そんな彼女との言葉のやりとり、文字のやりとりは心地よかったし、新鮮でもあった。

 

忙しいからという理由だけではないが、職場の目の前にホカ弁屋ができて以来ランチはほぼそこで調達した。いちいち考えるのも面倒なので、気がつくと毎日同じものばかりを食べている。彼女と出会ってから、同じメニューは「ソースカツ丼」になった。

 

これには元祖と本家をめぐる争いがあるらしいが、彼女は自分の地元が発祥の地だと自慢していた。「ソースカツ丼」は、めったに会うことのできない彼女とのつながりを確かめる手段でもあった。

 

彼女はある宗教のメンバーだったが、僕はそれとは違う宗教に帰依している。互いに違和感を感じたことはなかったし、むしろ安心していたのだと思う。ネット空間の、ヴァーチャルな出会いで、互いの素性などウソのかたまりかもしれないそんな相手と結ばれる信頼関係などいい加減なものだと言っていい。

 

自分はこんな信仰と打ち明け合うだけでそれが急にリアルなものに思えてきた。だから、家族も職業も、普通なら言わないであろうようなことまでも打ち明け合ったのはそういう背景があったからだと思う。