おはようございます!

理学療法士の權藤大介です。

 

 

 

今回はアーティストの方々、特にボーカリストの方に意識して欲しい筋肉を紹介します。

 

それは

小胸筋です!

 

小胸筋は、図のように肋骨の3~5番と肩甲骨の烏口突起に付いていて、肋骨を引き上げ、肩甲骨を前方に引き出します。

具体的には、投球動作や床に落ちた物に手を伸ばす動作、激しい呼吸などで働きます。

 

加えて小胸筋が現代人にとって一番関係してくるのが、

猫背です!

 

デスクワークやスマホに熱中してしまうと、肩甲骨を上に引き上げながら背中を丸めた姿勢となります。

この姿勢が小胸筋を縮めた状態であり、徐々に縮まったまま固くなってしまうため、気付いた時には、良い姿勢に戻せなくなる・肩こりが起こりやすくなる・呼吸が浅くなるなどの症状が出てきます。

 

では、なぜ特にボーカリストに意識して欲しいのか?

それは小胸筋によって引き起こされる呼吸の浅さに気付きにくいからです。

 

ドラムであれば肩が上がりにくい、ギター・ベースであれば肩こりがひどいなど、直接関係がありそうな症状が出るのですが、ボーカリストだと「声量が落ちた」・「息が続かない」・「高音が出にくい」など症状が多彩であり、他にも原因が考えられる症状が多いからです。

 

では、なぜ小胸筋がそのような症状に関係してくるのか?

 

声量は肺活量に影響されますから、素早く多くの空気を吸えなければ声量は落ちてしまいます。小胸筋が固くなることで、肋骨の動きが悪くなれば、吸える量も速度も落ちてしまうのです。

 

次にブレスの長さ・音程のコントロールですが、色々な文献・参考書では「喉は繊細なコントロールが必要であるため力まない」「腹圧で息を吐くことで声に力を与える」ということが多く書かれています。

ですが、喉と腹部の間にある胸郭の事はあまり書かれていませんでした。

理由としては、喉や腹部のように意識して動かすというよりも、肺に空気がたくさん入る姿勢を維持することが優先になるからでしょう。

しかし、ロックバンドのヴォーカルが直立不動で歌うわけにもいかないので、どのような姿勢であっても胸郭の大きさを維持する必要があるのです。

 

そもそも高音や強く発声しようとすると、喉を通る空気の圧を高めるために、腹圧をかけて横隔膜を押し上げます。さらに肋骨の間にある内肋間筋が収縮し肋骨が狭まることで肺の収縮を早める事で空気圧をさらに上げるのです。

 

しかし固く狭くなった胸郭では、喉で作りだされた声を胸で共鳴させられず、響きのない声になってしまいます。それでは、息が長く続いたり、高音が出たとしてもあまり魅力的とは言えません。

響きのある声にするためには胸郭が広がった状態をキープする必要があり、肋骨を引き上げる小胸筋の働きが不可欠なのです!

 

 

 

小胸筋を検索すると、ストレッチの重要性が書かれているサイトはたくさんあります。

確かに、小胸筋は小さい筋肉ですので固くなりやすいのでストレッチは欠かせません。

しかしストレッチだけではボーカリストのパフォーマンスをアップすることはできないのです。

しっかりと筋肉を大きくし柔らかくしなければ、激しいライブではすぐに固くなってしまいます。

また、強化し柔軟性を上げても意識して緩めることができなければ、使いやすくはなりません。

 

小胸筋を意識して「ストレッチ」「筋力トレーニング」「ゆるめる」ことでパフォーマンスアップにつながるはずです。

 

 

最後に、「ストレッチ」「筋力トレーニング」「ゆるめる」メニューをご紹介します。

 

ストレッチ

壁に手を置いて身体を反対側に捻じって伸ばします。

図にもあるように、筋肉が伸ばされた感覚あれば十分です。

強引に伸ばそうとすると、首などに余計な力が入ってしまい首の筋肉が固くなったり、肩の関節を痛めてしまう事になるので注意してください。

しっかりとほぐしたいのであれば、小胸筋の辺りにテニスボールなどを当ててストレッチすると良いでしょう。

くすだ接骨院・鍼灸院様引用

 

 

筋力トレーニング

プルオーバーというトレーニングです。

動画では高負荷で行っておりますが、小胸筋は小さい筋肉なので意識しやすい負荷量で実施してください。

バランスボールを背中の下に置いて行うと、体幹トレーニングと併せて行う事が出来ます。

 

ゆるめる

小胸筋に手を当てて、力を抜いた状態で腕を回します。

その際、小胸筋が固くならないように意識して回してください。

 

番外編:ほぐす

小胸筋は様々な筋肉と筋膜で繋がっています。

図のように繋がっていると考えられており、繋がりのある筋をほぐすことでより柔軟性アップが望めます。

 

また、喉の筋肉にも筋膜の繋がりがありますので直接喉の周りをほぐすことに抵抗がある方は繋がりのある筋をほぐすと良いでしょう。

 

 

それでは、また!

 

 

 

参考書籍・文献

荻野仁志他『「医師」と「声楽家」が解き明かす発声のメカニズム』

川井弘子『うまく歌える「からだ」のつかいかた』

メリージーン・アレン『歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』

ヴェルナー・カーレ他『解剖学アトラス』

トーマス・W.メイヤーズ他『アナトミートレイン』

石野健二”声楽発声のメカニズム”宇都宮大学教育学部紀要65(2015):105-118

増山美知子”発声について”研究紀要9(1984):24-53