チェックインしたら、
近所のショッピングビル「シーロムコンプレックス」を目指すのだが、
その前に、すがれるものには全てすがる。


チェックインしながら、
スーツケースの鍵をなくしてしまったので、
助けて欲しい、
何かアイデアはないか?
と尋ねたところ、
何とあっさり了解を得られた。


やったー、スーツケースをフロントに預けて、
マッサージでも受けに行って、
数時間後に戻ってきたら、はい、開きましたというシナリオだ。


じゃ、よろしくとお願いして、街に繰り出そうと思ったら、
スーツケースを部屋に運んで、部屋で待っていろ、と指示された。
まあ、よい。
すぐに開けてもらって、外出しよう。


「あなたの部屋に、エンジニアを向かわせます」


はっ?エンジニア?
こういう場合、エンジニアという係が来るのだろうか?
嫌な予感を抱きながら部屋で待っていると、
ドアをノックする音がした。
すかさずドアを開けると、
彼はドライバーやペンチなどを携えている。
俺が望んでいない開け方が始まる気がする。


おもむろに両手に道具を持ったエンジニアは、
ゼスチャーで壊してもいいかと聞いてきたので、
もちろんダメだと断った。


すると、今度はドライバーを鍵穴に差し込んで、
ムリヤリ回そうとするではないか。


「あー」と声を上げて制止したが、鍵穴は少しゆがんでしまった。


エンジニアの彼は好意でやってくれているが、
これ以上は危険だ。
お礼を告げて、退室してもらった。


さて、重いスーツケースをシーロムコンプレックスに運ぶ。
5月のバンコクは暑い。