むかしむかし・・・
友人のトモコが陶芸家と結婚しました。
まだ売れない貧しい陶芸家の彼は、新婦であるトモコに陶器のリングを贈りました。
割れたらまた作る。
また割れたら、また作る。
割れなくても誕生日には作ってくれる。
夫婦は、4人の子宝に恵まれ、
幸せににぎやかに苦楽を共にしました。
子供たちは成長し、それぞれの道を歩みだし独立していきました。
ある時、彼は体調を崩し癌だと分かりました。
近くの病院から大学病院へも行きましたが、もう、治療法がないくらい進行していました。
彼が選んだ最期の場所は自分の家。すぐ横に仕事場のある自分の家。
トモコの横で仕事場を眺めながら静かに息を引き取りました。
トモコはプラチナやゴールドのリングをもらうことはありませんでした。
トモコ・・・
「何個作ってもらったか分らんわ」
「初めて陶器のリングをもらった時ね、ナプキンリングかと思ったわ(笑)。
金属と違って厚みもあるやん。
邪魔になるし、ほとんど台所の引き出しの中。
ダンナには言わんかったけど、プラチナほしい!!って何回も思ったわ」
「着けんと悪いかなって思うやん、時々出かけるときは革ひも付けてペンダントにしたり(笑)。
そやけど、何かにぶつけたら割れるんよ。そしたらまた作ってくれるんよ」
「今度こそプラチナもらえると思ったのに・・・」
「割れなくても作ってくれたんもあるんよ。誕生日とかに気が向いたら(笑)」
「陶器は出来上がったら縮むやん。指にはまらないときもあるし、大きすぎてブカブカの時もあったし」
「何個も何個も作って気に入ったんだけ私にくれるんよ」
「ほんまに笑うやろ?おかしいわ・・・」
・・・ええ夫婦やん・・・
・・・ほんまにええ夫婦やわ・・・