この物語は終わらない

終われない

だって

始まってもいないのだから


僕は唐突にも生きている

いつもの放蕩の命に浮かんでいる

絶対にない場所で探し物を続けるのが

辛くて

そして好きだったんだ


天使を探していたのか定かではない

君という二人称単数が体温を持ち

僕の前で踊り出す夢を見る

天使じゃないじゃねーかよとため息をついて

天使だったんだ やっぱりっと 空を仰ぐ

どっちでも同じなんだ


結局 絶望するんだから


君は季節の横顔さ

移ろいやすい美しい季節のね



ーーー

同じことを繰り返す

誰も救ってくれはしない底なしの


出会い系

いい女

コストパフォーマンス

時短

セミプロ


少し壊れた僕には

少しいかれた君が似合う


約束をすっぽかす奴のプロフィールには

約束を守る人がいい と書いてある


クソ野郎とゴミと嘘まみれの体液

でもすれ違うだけの僕らには


やっぱり物語を探していたのかもしれない

触れられない見えない方の横顔のストーリーを想う

でも 想像を膨らませるほどの慈しみを

情念を覚える人格なんてほとんどいない


そんな場所なのを承知で溺れているのに


綺麗すぎるプロフ写真は裏デリ時短業者である

こんなのに当たると心底生きているのがアホくさくなるほどの虚無感にさいなまれる


どんな借金を背負って裏にマル暴の管理が入っているのがバレバレなそんな状況になっているのか

その痛みを見せてくれるようなスキさえない鬼畜


なので可愛すぎる写真はスルーするのだ

きっとどこかの拾い画像 

有名過ぎないモデルさんとか色々


だけど時々イタズラ心が疼いて

課金を気にせずちょっかいを出してみたくなるメンタルの時がある


「お綺麗ですね

    天使ですか?」



反応なんか期待していない


どうせ打ち子(管理している男)が女のフリして脈絡のない返事をするか

スルーか

それを楽しむともなく楽しむ


馬鹿みたいだがそんな気分の夜もあって


忘れた頃 返信を見つける


「天使じゃありませんよ」


「じゃあ アイドルさん?」


「アイドルでもありません」


CD買うと握手出来ますか?」


CD出していませんw


みたいな

たわいもない話がものすごいインターバルを挟んで静かに続く


時間はいろんなものを育ててしまうから


「でもさ かわいいよね」

「いえいえ すごい盛ってるので

   本物は23ランク下がりますよ」


「あ  今度ライブがあるよ

   どこそこで何時にね」

 「音楽やってるんですね  いいですね

   郡内に住んでるんで行けそうもないけど頑張ってくださいね」


ごく普通のスルーだけど

妄想スイッチが入った僕にはこの流れは新鮮だし 

ちょっと刺激が強かった


もう無理だった


最初からハマチ系のヒトデナシ話を出してしまえてれば楽だったかもしれないが

この期に及んでは 気持ちが入り過ぎて無理だった


キモがられてもいいとエモエモモードでポエム投下


これで大概は遮断できる

大体は引くから


ーーー


ところがそんな詩に返信が

返詩の形で届いた


書き慣れていない文体だけれど

ちょっと面白い感覚がある


胸が締め付けられる


ダメだ やばい


無理だ

絶対無理


惚れるよね

これは

惚れるよね

惚れたけど

悪くないよね

無理だよね


苦しい


ほんと苦しい


どのツラ下げて

どのツラ下げて


そして言葉は溢れた


いくつかエモ詩を送る

重かったかもしれない


僕の言葉は少し強いから

時々突き刺してしまうから


どういう風にこの恋を殺そうかと

空を仰ぐ


美しい五月


この季節に恋に落ちたい

それは長らく見続けて叶わなかった夢だ


美しい季節は短い

少女という季節のように




嚙み殺そうと思った

もう見ないようにと無視リストに入れたりもした


でも気になっては面倒な手順を踏んで覗きにいって

結局は同じだった


美味しかったよっと紹介したチョコ菓子を

君が 食べてみたいと返信をくれたその箱を

食べられず捨てられもせず

ましてや母に食べてもらうとかも出来ず

どうしてか冷凍庫に隠す僕のこころ


君を見つめるだけの日々

もう返信は来なくなった

愛しいプロフ画像を覗き

目を伏せ 痛む胸を撫でる真夜中

唐突にプロフ画像が変わった

なんだこれは

なんだこの妖精は

なんだこれは!

こんなもん公開したらメール殺到するだろ?

きっと今だってそのはずなのに

何がしたいんだ

そんなに賛美が欲しいのか

やめてくれ

嗚呼っと

心臓がバクバクする

これは白魔術で天使を呼び出した時みたいな

でも耐え難い衝撃だ

衝動的に退会ボタンを連打する指先

愛おしい君の返信は全て消えた

ポイントも消えた


結局 それも無理で耐えられず再登録

ポイントを買い一番情けない顔写真をアップする


何度目かのサヨナラメールを送る

もはやサヨナラ詐欺である


ふとこの情けない恋を書き留めようという思いが頭をもたげた

あの物語もその中に埋め込んでやればいい


ああ

読んでもらいたいな

はあ

無理だろうな


ーーー


実はもう10年以上前に目覚めの夢に見た

啓示にも似た短い物語を

この命の絶筆にしようと脳味噌の隅にプロットを隠してある


魔女見習いの君と魔法使いの下働きの僕の物語

僕らは森のそばの湖の反対側に住んでいた幼馴染という設定

君は綺麗なのに超不人気なデリヘル嬢で

僕は真夜中の誰もいない場所でしか歌えないストリートミュージシャン


佳境のところの流れはイメージできるのに

その前が書けなくて

多分、君の体温が声が上手くイメージ出来ないんだなって


無意識がいつも君を探していた

キャラなんて当て書きさ

もちろん

君が僕の中で踊り出し喋り出し嘘をつき汚れ

そして泣き笑いの僕らが流れたら

僕は夢中でそいつを書き留めるのだけれど


実はね

やっと見つかったとか思った

思っちゃった

笑えるでしょ?


もう完成しない物語の佳境を

ねえ

読んでくれない?


このままじゃ この物語は世界へ生まれ出せないだろうから