#春夏秋冬そして春 #キム・ギドク監督作品  | Gon のあれこれ

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読後感、好きな太極拳、映画や展覧会の鑑賞、それに政治、ジャーナリズムについて、思いついた時に綴ります。

山々が緑樹で囲まれた湖の中に浮かぶ寺。

湖面はそのみどりを映してどこまでも碧い。

 

山道をたどって湖に出ると山門があり、

そこから小舟で寺と往復する。

 

春夏秋冬そして春、、、

この映題の中に、自然の循環、永劫回帰の哲学が込められる。

 

この寺に暮らす中年の僧と幼児。

幼児は鮒や蛙や蛇を捕まえ糸を巻いて重しを付ける。

それを見た僧は幼児の背に、重しを付け、その苦しみを味会わせたのち、

それらの生き物がもし死んでいればその咎を一生負い続けよ、と言う。

幼児は重しを付けたまま生き物を探し鮒も蛇も死んだことを知る。

始めて知る罪と罰。

 

幼児は成長して青年となる。

ある日母親に付き添われて心の病を癒やすために若い女が来る。

青年は女に情欲を燃やし、僧が寝ている間に女と情交する。

そして女と寺を出て行く。

 

ある日僧は何かの包み紙の新聞に、

若い男が嫉妬の末に女を殺したことを知る。

男は再び寺に戻る。

僧は男が怒り苦しむのを見て感覚器を紙を貼って閉じ、

男を棒で打擲し、身体を縛ってつるす。

男の心が静まったとき、床に猫の尾で文字を書き付け

ナイフでその文字を彫るように命じる。

 

だが程なくして2人の刑事が男を追って寺に来る。

僧は刑事に逮捕を一晩待ってくれるよう頼み、

男は寝ずに彫り朝倒れて床に転がる。

転がった男に刑事の1人は自分の上着をかけてやり、

僧と共に男の彫った文字を筆で着色する。

経文は般若心経、色即是空。

老僧は男たちを見送った後、見ざる聞かざる言わざるを顔に貼って、

小舟に火を付け焼身死する。

 

男は刑期を終え、凍結した湖面を歩いて再び寺に戻ってきた。

本堂には老僧の衣服がたたんであり、男は作務衣に着替え

船の遺骨を拾い、弔い、寺に住む。

 

氷のそろそろ緩む頃、スカーフで顔を蔽った女が幼子を連れてくる。

夜、女は幼子を残したまま、後ろ髪を引かれるようにして寺を去る。

が、氷の割れ目に落ちて凍死する。

翌朝女を引き上げた男はスカーフを取り、何かを知り、

半身裸で菩薩像を手に抱え、腰ひもで重しをくくりつけて苦行する。

ここで「アリラン」が背景に流れる。

 

そして春

男は幼子と寺に住む。

幼子は亀と戯れる。

 

自然とともに、人間の運命は循環して行くのだ。

否あるいは、老僧のように、次は蛇に生まれ変わるか?

それを輪廻とも言うが、、、、

 

見終ってまず印象に残るのは、この人里離れた湖上に浮かぶ寺。

この世ならぬ景色は実在するのだろうか?

 

この問いは多くの人が抱くものらしく、ググると出てくる。

慶尚北道周王山国立公園の湖 注山、とある。

しかし寺は映画のために制作して浮かべた。

 

韓国は大雑把に言ってキリスト教徒4割、仏教と3割、と言われる。

2017年7月下旬、この湖の南、かつて三国時代の新羅の首都であった慶州に行き

シティツアーに参加した。(慶州は注山湖と同じ慶尚北道に属する。)

 

仏教遺跡の多い古都慶州だが、仏師は慶州から日本に渡来した。

仏国寺には日本語の出来るボランティアガイドの女性がいて、

真剣に仏教を信じていることを力説され、

ああ、韓国にはいまだ仏教が生き生きと生きている、と感じた。

 

監督のキム・ギドクはキリスト教徒らしい。

仏教は本来男女平等的でありブッダに付きしたがった僧には

既に尼僧集団があり、仏典には女性の寄進者の名前もみえる。

キリスト教ではカトリックは父権的であり、

司祭は男性のみ、バチカンは男性の組織である。

プロテスタントは女性の牧師もいて、子供の頃日曜学校で

尻をつねられた痛い思い出がある。

 

刑期を終えて帰ってきた男は監督のキム・キドク自身が演じている。

制作当時は43才、演ずる男は恐らくは嵩山少林寺(中国)の拳法書をみて、

稽古に励む。なかなかの運動能力、まさかエキストラではあるまい。

映画の筋との関係でそこまでする必然性は無い。

独りの男の人生をいろいろな俳優が演じてい行く。

その連続性、というかリアリティを持たせているのは、

この湖上の寺、という場である。

いわばゲシュタルトでいう「地」。

そこに出来事が「図」として継起する。

 

キム監督の「悪い女」はブログにも書いたが、女は悪人ではない。

むしろ男の性の哀しさが描かれている、と感じたが、

この映画の男の運命の中にもその哀しさを感じる。

そう感じる一因は、女性の「儚さ」にもあるのではないか、

この映画の女性も儚い感じの、存在感の薄い女性である。

 

この2003年公開(日本2004年)の映画には、ツリー・オブ・ライフの検索で

英国BBC放送の「21世紀グレーテストフィルム」(2016年)からたどり着いた。

ツリー・オブ・ライフは7位にランクされている。

因みに1位は「マルホランドドライブ」、キム・キドクのこの映画は66位にランクされている。

アジア最高位は4位に宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」。

2018年の是枝監督の「万引き家族」、ボン・ジュノ監督の「パラサイト」は選定以後である。

 

興行成績では米国での韓国映画最高のヒット、となったらしい。

また、韓国映画最高の栄誉である大鐘賞と青龍賞を受賞した、と記録されている。

キム監督の簡単な経歴は、「悪い女」のブログを参照されたい。

 

最後に、映画のエンデングで韓国歌謡「アリラン」が流される。

韓国旅行中の昼食時に韓国の歌謡曲を聞くともなく聞いたが、

その節回しは演歌と違わない。

映画でのアリランは中年女性のやや太い声で若い女性の高い声より、

一層哀切が迫る。和訳の字幕が無いのが残念だが以下に貼る。