今年のアカデミー作品賞を受賞したCODAはフランス映画エール
(原題は La famille Belier ベリエの家族 と訳すといいのだろうか)
のリメイクだと知り俄然興味が湧いてレンタルで視聴。
制作は2014年、映画・Comより簡単な紹介を貼る。
聴覚障害を持つ家族の中でただひとり耳の聞こえる少女が、歌手になる夢を家族に理解してもらおうと奮闘する姿を描いたフランス製ヒューマンドラマ。フランスの田舎町に暮らすベリエ家は、高校生の長女ポーラ以外の全員が聴覚障害者だったが、「家族はひとつ」 を合い言葉に明るく幸せな毎日を送っていた。ある日、ポーラは音楽教師からパリの音楽学校への進学を勧められる。しかしポーラの歌声を聴くことのできない家族は、彼女の才能を信じることができない。家族から猛反対を受けたポーラは、進学を諦めようとするが……。人気オーディション番組で注目された新人女優ルアンヌ・エメラが主人公ポーラ役で歌声を披露。共演は「しあわせの雨傘」のカリン・ビアール、「タンゴ・リブレ 君を想う」のフランソワ・ダミアン、「ゲンスブールと女たち」のエリック・エルモスニーノ。「ビッグ・ピクチャー 顔のない逃亡者」のエリック・ラルティゴが監督・脚本を手がけた。フランス映画祭2015で観客賞を受賞。
ロケ地はイル・ド・フランス地域圏(圏都はパリだからパリは日帰り圏だろう)の北東部にあって豊かな農村部が広がる地域だ。ずいぶん昔、フランスの世界的ホテルチェーン、アコーの本部に話を聞きに行ったことがあるが、同じイル・ド・フランスでもパリの西側、地下鉄も走っており、新都心的な街であった。つまり同じ地域圏でも多様性が高いのである。
この映画の制作2014年だから社会党のオランド大統領の時期。
父親がベッドで読む本はオランド著の「フランスの夢」ほか。
これで恐らく監督が社会党支持者では、と思う。
そして真っ黒な仔牛が生まれ、父親は「オバマ」と名付ける。
主人公のポーラを演じるアンヌ・エメラはふくよかな体型の女の子。
歌唱は、いわば身体全体が楽器、つまりバイオリンのボディのようなものだから体型の良さは強みになるのだろう。
高校生のポーラは好きな男の子に憧れてコーラス部に入るが、音楽教師は屈折した心の持ち主だが、自分の過去の心の傷に立ち向かいながら、
時にポーラに辛辣に当りながら彼女の才能を生かすべく音楽学校入りを粘り強く勧める。
自分以外の両親と弟が聴覚障害者で、自分が唯一健常者との会話のリンチピン(要め)ゆえに自らも煩悶し、また家族も彼女の才能がどれほどのものかを理解出来ないがゆえに反対するが、彼女が聴衆を感動させる場に立ち会って考えを変える。そしてギリギリのタイミングでパリの階段状ホールでの音楽学校の歌唱テストに間に合い、そこで音楽教師の伴奏でミシェル・サルドウの「青春の翼」を家族とボーイフレンドが上の方で聞いている前で歌う。そして自然に手話が出てくるのだ。
作詞:ミッシェル・サルドゥー、ピエール・ビヨン 作曲:ミッシェル・サルドゥー
(翻訳:古田由紀子※日本語字幕より)
ねえ パパとママ 僕は行くよ 旅立つんだ 今夜
逃げるんじゃない 飛び立つんだ
酒もタバコも 捨てて 飛ぼう
無言のまま 不安げなママ 感じてたんだね
聞こえてたんだね きっと
僕は大丈夫 そう答えると ママは うなずき パパは無理に笑う
振り返らない 遠ざかる 駅から駅へ やがて 海へ
僕は行くよ 今旅立つ 飛び立つんだ 今夜
逃げるんじゃない 飛び立つんだ
酒もタバコも 捨てて 飛ぼう
見たかもしれない パパとママは 僕の涙を
でも戻らない 進もう
人生を信じて 自分を見つめる
どう生きよう 思いにふける 独り
息が詰まる この鳥カゴ
胸がつかえ 歌えない 思いきり
ねえ パパとママ 僕は行くよ 旅立つんだ 今夜
逃げるんじゃない 飛び立つんだ
酒もタバコも 捨てて 飛ぼう
飛ぼう 飛ぼう
英語字幕入りのポーラ(アンヌ・エメラ)青春の翼
蛇足だが映画の邦題は「青春の翼」でよかったのではないか、とも思う。
フランスは同性愛にしても抑圧が少なく、性教育もオープンに行われている。つい最近買春が罰金となったが、売春はお咎め無し。事実婚も多く結婚と同じ権利義務下にある。
その所為か婚姻率も離婚率も低い。
一方CODAはアメリカ・フランス・カナダ合作映画。
リベラル対保守・宗教右派の対立が激しく、性教育も同性愛も、避妊も堕胎も政争の具になるアメリカでこの映画はどのような変質ないし再編が行われるのだろうか?という興味がある。
あるいはそれらを回避するための合作、という方法なのか?
と言う興味が湧いてくるのである。
ちと脱線するが、いまフランスでは大統領予備選が終わり、マクロン現大統領と極右のマリーヌ・ル・ペンの一騎打ちとなった。
マリーヌはトランプやハンガリーのオルバンと同じくプーチンのお友達である。いまのところルペンはそのことを巧妙に表面化させないでいるが、結果はどう出るか。選挙権の無い私はマクロン支持だが、今のフランスの選挙民のセンチメントの中には「アンチエリート」が根深くある。
先に挙げたオランドも、継いだマクロンも、さらにはジスカールデスタンやシラクも、超エリート校「国立行政学院」の出身である。
そのルサンチマンが決選投票にどのような影を落とすのか、
そしてその結果はEUやNATO、現在のロシアのウクライナ侵攻の行く末に大きく影響があるのだ。
その意味で我々にもおおいに関係がある。