映画 「そこのみにて光輝く」  呉 美保監督作品 | Gon のあれこれ

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読後感、好きな太極拳、映画や展覧会の鑑賞、それに政治、ジャーナリズムについて、思いついた時に綴ります。

原作者の佐藤泰志は49年函館に生れ育ち、若くして有島武朗青少年文芸賞を受賞し、芥川賞に5度ノミネートされながら、ついに受賞はかなわなかった。

叶わなかった理由は彼の41歳、という早すぎる自死によるだろう。

「海炭市叙景」

海炭市叙景 (小学館文庫)/小学館

も、この「そこのみにて光輝く」
そこのみにて光輝く (河出文庫)/河出書房新社
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にも、函館の街の情景が深く織り込まれている。
北海道でも釧路、旭川、小樽、札幌、函館と各々気候風土は異なり、それぞれ固有の歴史を有している。
旭川には三浦綾子が、釧路には原田康子が、小樽には多喜二がいて、都市特有の匂いがする作品がある。

市内に歌碑のある啄木は盛岡の人であり、その意味では泰志が函館の人にとっては待望の『わが街の小説家』であったに違いない。

かつては、文字通り北海道に新天地を求めてくる人、内地、とりわけ東京に志を抱いて連絡線で渡った人々の玄関口であった。

函館は造船や港湾、国鉄、あるいはエキゾチックな観光資源を有する札幌に次ぐ都市であったが、造船や石炭の積み出し港としては産業構造の変化に揉まれ、あるいは鉄路から航空路へなどの時代の変化の中で、少しずつ寂れてきた。

その衰退もまた、泰志の函館の情景の一部である。

泰志を惜しんだ函館の人は、「海炭市叙景」の映画化を結実させた。
私はレンタルで見たのだが、惜しむらくは余りにも画面が暗く、もどかしい感が残った。

この「そこのみにて光輝く」の題名の着想は、恐らく函館山から街の灯かりを、その明滅する様から得たのではないか、と直感的に思った。

原作(kindle版で読了)とはプロットが違う点もあるが、達夫、千夏、拓児らの性格描写は忠実に描かれている。

千夏は原作では大城姓で沖縄の人を思わせるが、その深い受容性ー御嶽に仕える女性の母性的なーは北海道の女性とは違った情美がある。
また拓児を演じた菅田 将暉(すだ まさき)は難しい役どころを良くこなしている、と思った。


参考:北海道出身の小説家
池澤夏樹(帯広)、安部公房(旭川)、京極夏彦(小樽)渡辺淳一(上砂川)など