直腸切除術後の便失禁について
自動吻合器の発展により,肛門に近いがんでも肛門を温存した手術が可能となりました。
しかし術式の選択には,肛門からの距離の他,がんの組織型,肛門括約筋の機能,直腸がん以外の下腹部の手術経験の有無,放射線治療経験の有無,患者の日常生活自立度や年齢,考え方,周囲の環境などさまざまな要因があります(図5)。
図5吻合部の高さによる手術術式の呼称と便失禁の程度(文献7)より引用改変)
一時的ストーマ閉鎖後に頻繁な便意と排泄に悩まされることがあります。この症状が術式選択の自己決定支援において重要なので記します。
便の禁制(正常な機能)
便やガスは内肛門括約筋(不随意筋)と外肛門括約筋(随意筋)が収縮しているために漏れずにいます。排便は大脳からの排便指示によって直腸が収縮し,内・外肛門括約筋が弛緩して起こります。
便失禁の種類
便失禁には,内肛門括約筋の障害により,便意がなく知らないうちに便が漏れる「漏出性便失禁」と,外肛門括約筋の障害により,便意はあるが我慢がきかずに漏れる「切迫性便失禁」とがあります。
直腸切除術後の排便障害は,便保持機能と内肛門括約筋機能の低下が主な原因です。その頻度と経過に関する一例を表3に提示します。
表3超低位前方切除術後便失禁の経過 (岐阜大学 腫瘍外科 杉山保幸先生 文献4)をもとに作成)
術後の便失禁の治療と看護
便失禁は相談しづらく,正確な表現も難しいので,十分に話を聞くことが大切です。
- ①薬物療法
ポリカルボフィルカルシウム,塩酸ロペラミド,整腸剤を用いて便を有形に調整します。
- ②食事療法
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく摂取し,オオバコ製剤やふすまなどを多く含む食物繊維の摂取を促し,便性コントロールを図ります。
- ③骨盤底筋群体操(図6)
尿失禁の治療として知られていますが,便失禁にも行われます。外肛門括約筋の筋力は,訓練によってある程度は強化できますが,内肛門括約筋の機能は改善しません。したがって直腸切除術後の便失禁における骨盤底筋群体操は外肛門括約筋を鍛えて,それを補おうとするものです。