長×キョン小説「No Enter」(10)
「やっぱり、いたか…この覗き魔!」
「長門さんに見つかると面倒だわ。歩きながら話しましょう。」
そう朝倉に促され俺と朝倉はエレベーターへと向かった。
「長門さんには、お別れした?」
「やっぱりお前、記憶あったんだな。」
「まぁね。ちゃんと覚えてるわよ。でも安心して、キョン君を殺そうなんて思ってないから。私の役目は長門さんを守る事、その為だけに復活させられたの。でも、その役目ももう終わりね、これからはキョン君が長門さんを守ってくれるもの。私の存在理由無くなっちゃった。」
「何言ってるのか分かんねーな。確かに長門には会った、だが別れてなんかいないぜ。あいつはちゃんとこの世界にいる。それとお前はお前だろ、復活とか役目とか関係ないだろ。確かに有希は俺が守る、だがな俺だけじゃどうしようもない事だってあるだろ。女子同士じゃないと相談できない事とかあるだろうし、俺だって24時間有希の側にいれるわけじゃないんだ。朝倉、お前は有希の親友なんじゃないのか?有希が一緒にいたいと思ったからこの世界に復活させたんじゃないのか?守るだけなら喜緑さんや他の方法だってあるだろうに。押し付けばかりじゃなく、少しは有希の気持ちも分かってやれよ。」
「フン、偉そうに。ただの人間のくせに…」
「お前だって、朝倉涼子っていうただの人間だよ。」
「確かに、そうね…まったく(ぐすん)キョン君に諭されるなんて思っても(ぐすん)みなかったわ。」
「泣くなよ、朝倉~」
「泣いてなんかいないわよ(ひっく)…うるさいわね(エッエッ)…」
俺の差し出したハンカチを奪うように受け取ると、朝倉は目頭を覆って肩を震わせて泣き始めた。マジで勘弁してくれ。
エレベーターが5階に着き自動ドアが開くと朝倉が泣きながら降りる。
俺としてはそのまま帰りたかったが、泣いている女の子を放置して帰るってのも後味が悪いので仕方なく俺も一緒に降りて家まで送り届ることにした。
朝倉の家の前に着くとマンションの一室だけあって外見は全く同じだった。違いと言えば景色が2階分違うって事くらいか。
「送ってくれてありがとう。上がっていく?私も一人住まいだから遠慮はいらないわよ。」
元・宇宙人製アンドロイドってやつは貞操観念とかないのか?それに今はただの人間だろうが。そんな男をホイホイ家に招くのは問題だと思うが。
「いかねーよ。気が向いたら有希と一緒にお邪魔させてもらうわ。」
「そうね。」
「またな朝倉。ふつうに有希の親友でいてやってくれよ。」
そう告げて朝倉と分かれると、朝倉は笑いながら手を振るだけだった。
まったく本当に今日は色々有りすぎだ。まさか最後にこんなオチがあるとは思わかったぜ。
頼むからシャミセン今日は喋らないでくれよ。
そんな事を考えながら俺は家路を急ぐ。
ふと空を見上げるとチラチラと小雪がまだ降っていた。
「長門、有希…絶対に幸せにしてやるからな。」
~Fin~