長×キョン小説「No Enter」(8)
「もしかして、用事ってコレ?」
「いや、用事は別にあるんだ。」
「…そう。でも仕方がない。…ガンバって。」
「おぅ、ガンバらせてもらうぜ。」
「…うん。」
俺は長門の前で大きく深呼吸をする。
「よし、今から用事をするぞ!…長門、俺は鈍感だし、朝倉に言わせればヘタレで、その上たまに変な事を口走ったりするが、そんな俺で良かったら付き合ってくれないか。お前の事が好きなんだ。」
もちろんOKをもらったさ。すぐに抱きつかれて号泣されたけどな。
これで公私共に正式なカップルだ!
冷やかしたい奴は冷やかせ!逆に見せ付けてやる。
最良だった今日の部活も日が暮れ終了をむかえる。
荷物をまとめて帰ろうとした時、長門がパソコンを見つめていた。
長門の眼鏡にパソコンのモニターが反射していて、長門は全く動こうとしない。
「おい、長門どうした?」
そう言った途端、長門がガクンとふらつき倒れそうになる。
「大丈夫か長門!」
俺が駆寄ると、長門は俺の腕に掴まり「大丈夫。ちょっとふら付いただけ。」といって立ち上がる。
パソコンを見ると画面は真っ暗だ。そういえば、さっき長門がシャットダウンしていたのを思い出した。
パソコンがついてたと思ったのは気のせいだったのか?
一旦長門を椅子に座らせ、少し休ませてから再度帰宅の途についた。
外に出ると風は無いがかなり冷え込んでいる。
「今日は一段と冷え込むな。長門、寒くないか?」
「大丈夫。」
長門が俺の方をちらちらと見てくる。
「あの…今日、予定あるの?」
「予定なんてないさ、家に帰ったら飯食って寝るだけ。いつもと変わらん。長門は予定あるのか?朝倉あたりが尋ねて来そうだが。」
「…ない。朝倉さんも用事があるって言ってた。」
なんか、朝倉に見透かされているというか、気を使われている気がするのは気のせいか?
「そっか…それじゃ、どっか二人で暖まって行くか?」
「へっ…二人で暖まる!…でも…うん。あ、あなたに任せる。でも…私、初めてで…その、あなたは経験あるの?」
「経験?何の話だ???」
長門を見ると長門は今まで一番顔が真っ赤になり、そのまま倒れてしまうんじゃないかと思うくらいだった。
そして、長門の言葉の意味に気がついた俺も真っ赤になり、次にどう言葉を出していいか分からなくなるほどだ。
「一応、コーヒーでも飲んで帰るか?…ってことだからな。」
「う、うん。分かってる…私も喫茶店に一人で入ったこと無いって…意味だから。」
「これは独り言だが、俺だって経験は無い。」
気まずい雰囲気の中、通学路の長い坂道を下っていると、夜空から純白の雪が舞い降りてきた。
「ユキ…」
「うん。とっても綺麗…」
「ユキ…そう呼んでもいいか?」
「………はい。私としても、そう呼んで欲しい。」
俺と長門は自然と手を繋ぎ雪降る中を歩き出す。
「提案がある。」
「提案?なんだ有希。」
「喫茶店に行くより、私の家に来て欲しい。その変な意味じゃなく、クリスマスを彼方と二人で過したい…ダメ?」
そんな、最高ともいえる提案を不許可にするなんて事を俺は出来ません!
「もちろん許可だ!どうせならコンビニで何か買っていこうぜ。」
「それは名案。賛成。」
クリスマスの日のコンビニは行けば、ショートケーキに、ホールケーキ、ローストチキンやローストビーフ、ちょっと洒落たパスタ類や惣菜、ファーストフードにお菓子にシャンパン風ジュース。もちろんワインやスパークリングワインやカクテルなどの酒類なんかもあり大概の物は揃う。
もちろん酒類は買う気もなければ販売もしてもらえないだろうから無視として、ショートケーキとジュース、それにパスタとローストチキンとお菓子を買い込むと長門の家へと向かった。
「あがって。」
そう言うと長門がスリッパを出してくれた。俺はスリッパを履き長門の後について部屋に上がり込むとコタツに買って来たものを並べ、クリスマスツリーもイルミネーションも無いが二人っきりの楽しいクリスマスの夜を過した。
「今日は楽しかったよ有希。今までのクリスマス家族パーティーという名の妹の世話焼き日とはえらい違いだ。」
「私もとても楽しかった。でも彼方の家のパーティーも楽しそう。」
「そうか?疲れるだけだぞ。」
「だって、いつも私一人だったから…」
長門が少し寂しそうに語る。長門が3年間待機モードとかいうのでこの家に一人いたのは知っている。だがこっちの長門はどういう過去があるのだろう。家族設定はどうなっているんだ?考えれば俺はこっちの長門のことを知らないんだよな…。
「そんな寂しい顔すんなよ。これからは俺が一緒にいるからさ。なんなら来年はうちの家族パーティーに来るか。そのかわり疲れると思うぜ。」
「いいの?その時は是非パーティーに呼んで欲しい。」
長門が突然立ち上がり壁際まで行くと部屋の電気を消した。
明るい所に慣れていた視界が突然真っ暗になり何も見えなくなる。
「おい、有希。なにやってんだ?」
「こっち。」
「お前『こっち』って言われても目が暗闇に慣れてなくて何にも見えねーよ。」
すると『シャー』という音とともにカーテンが開けられ長門のシルエットが浮かび上がる。
「まったく、何考えて…」
窓に近づくと街の明かりがイルミネーションのように眼下に輝いていた。
「彼方にコレを見せたかった。」
「めちゃめちゃ綺麗だな。これならクリスマスツリーもイルミネーションもいらないな。」
「今年は特別に綺麗。」
「そうなのか?」
「そう、今年は彼方が一緒だから…今年は特別。」
確かにどんなに綺麗な景色でも、それを伝える相手や共感できる相手がいなけりゃ気持ちも半減するってもんだよな。
独り占めの景色なんて空しいだけか…
「有希…俺はお前の過去がどういうものかは知らん。だが、これからは一人じゃないからな。この先ずっと俺がお前の側にいる。だからお前も俺と一緒にいて欲しい。だから突然消えたり、居なくなったり、見知らぬ人になったりしないでくれよ…頼む。」
「あの…それって、プロ…ポーズ。」
あれ?なんか誤解されてる?慰め&この世界のハルヒや朝比奈さんや鶴屋さんみたい(あ、古泉もか…)にならないでくれって意味だったんだが。でも、ずっと側にいるってことは行く行くは結婚ってことになるわけで…誤解だけど誤解じゃなくて、あれ?あれれ?
「嬉しい。まだ結婚は出来ない…けど、彼方の指示は了解した。私もずっと彼方の側にいたい。離さないでほしい…」
窓からさす光に泣いてはいるが長門の笑顔が優しく映し出される。
俺はそんな長門の肩をそっと引き寄せた。長門の瞳が閉じられ、俺も目を閉じる。そして長門の柔らかな唇が俺の唇とが静かに重なる。
最初、長門の肩が震えていたが、すぐにその震えも止まり、その身を俺に任せてくれた。