長×キョン小説「No Enter」(6) | 和楽衣生活

長×キョン小説「No Enter」(6)

 携帯から長門の名前を選び発信ボタンを押す『プ・プ・プ・プ』と発信音が4回鳴った後『トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル…』と呼び出し音が続く。
 当たり前ではあるが、やはり呼び出し音0回で電話に出るという神業は、こっちの長門には無理だったようだ。
 何回目の呼び出し音の後だろう『もしもし…』と長門に繋がった。

 「長門か、俺だ。夜遅くに悪いな。」

 「あっ、ちょっと待ってて…」

 長門はそう言うと保留に切り替えられ『ジムノペティ第2番』が流れ始た。
 保留メロディとしてはどうかとは思うがエリック・サティの曲、特にジムノペティは好きだから良しとしておこう。
 しかし、聞き入る間も無く、長門の「もしもし…お待たせ。」という声が聞こえてきた。

 「今、大丈夫だったか?今日の事で落ち込んでるんじゃないかと思ってな。」

 「大丈夫。でも今日は本当にごめ…」

 「はい。ストーップ!何度も言ったろ、俺は気にしてないってな。」

 「そう言ってくれると私も助かる。」

 こっちの長門はやけに気にしすぎるというか後に引きずるというか、それともいつも平気な顔をしていたが、其の実元の長門も色々気にする性格だったのか。

 「(ぐるぐるぐる、にゃーご)こらっ、シャミセン。邪魔するな。」

 「…三味線?…ネコ?」

 「あぁスマン、前に言っただろ、うちネコ飼ってるって。シャミセンってのは(にゃーご)ネコの名前なんだが(にゃーご)そいつが電話の邪魔を(にゃーご、にゃーご)して(にゃーご)だな…だー、わかったわかった。代わってやるから。」

 俺の膝の上で大人しくしていたシャミセンが暇を持て余したのか電話をよこせとばかりに腕にまとわり付いてきた。
 やっぱり妹に面倒を任せておくべきだったぜ。
 しかし、なんなんだよ。そこまで携帯電話に興味があるのか?爪を立てるな、噛むんじゃない!

 「スマン、長門。シャミセンがお前と話したいそうだ。いいか?」

 「えっ?はい!どうぞ…」

 「(ほれシャミセン、長門だぞ)にゃーご、にゃーご、ごろにゃ~ご、ぐるぐるぐるぐる。」

 「………ニャー。ニャー。」

 「にゃーご、ぐるぐる、ふにゃー」

 「どうだ長門。シャミセンはなんだって?」

 「(クスクス)分からない。分からないけど可愛い。」

 「そっか。今度うちに来てシャミセンと遊んでやってくれないか。お前とは気が合いそうな気がするし、シャミセンも喜ぶだろう。」

 「分かった。今度、遊びに行く。」

 よし!シャミセン良くやった。俺もお前も高感度アップ間違い無しだ。
 猫好きとは思っていたが。長門のシャミセンを相手にしている時に聞こえてきた声は可愛らしく、目の前で一緒に遊ばせたら激萌えするんじゃないかと思ってしまう。
 しかし本当に何か喋っていたような感じだったな。シャミセンのことだ小難しい話でもしていたのかもしれんな…

 「それと明日だけどな、いつも通りの待ち合わせでいいか?」

 「えっ、いいの?また注目されて彼方に迷惑がかかる可能性が…」

 「迷惑なんて思ってねーよ。注目されるくらいウェルカムってもんだ。」

 「うん、本当は少し落ち込んでたから…電話、ありがとう。」

 「おう、明日いつもの時間にな。」

 やっぱり電話しておいて正解だったな。というより、これくらいしかしてやれない自分が歯がゆい。
 電話を切ると俺はシャミセンの顔を両手で掴み顔を近付ける。
 
 「シャミセン、邪魔するなと言っといただろ。…って言っても無駄か。馬の耳に念仏だな。」

 「にや~~~~~ご!」

 まったく、分かっているのか分かっていないのか。返事をするように良いタイミングで鳴きやがって。
 シャミセンが俺の膝から降りるとベッドの隅まで行って背中を向けくるりと丸くなる。

 「まったく馬と猫の違いも分からんとは、失敬な。…それよりも、あの少女は不安がっとる早く安心させてやったらどうだ?」

 「!!」

 おれはギョッとして、首をギリギリとゆっくりシャミセンの方へ向けた。
 聞き覚えのある渋い声だった。空耳ではないはずだ。シャミセンが喋った!!

 「ちょっと待てシャミセン。お前っ!!」

 シャミセンをとっ捕まえて尋問しようとしたところに、タイミング良く…いや、この場合タイミング悪く、妹が乱入してきやがった。

 「キョンくん、電話まぁ~だ~?あっ終わってる。キョンくん遊ぼー!」

 「にゃ~ごろごろごろごろごろごろ。ふわ~~~~…にゃふん。」
 
 「ちょっ、待て。俺はシャミセンに用が…こら、シャミセン逃げんな…」

 妹のフライング・ボディーアタックを受けると俺はベッドに仰向けに押さえつけられた。
 シャミセンは何事も無かったようにあくびをした後、俺のベッドから飛び降り開いたままのドアから出て行ってしまった。
 この世界は猫は喋らない『正常』な世界だったんじゃないのか!?