カメラがモタラシタモノ 11-08
俺は古泉の肩をガッシリと掴み震える声で問いただした。
「だ・だれだ、そんなデマを蔓延させてる奴は?」
「デマだなんて、あなたも酷いですね。もちろん長門有希さんご本人からの報告ですよ。あの感情表現の極端に少ない彼女が頬を赤く染め微笑んだのですから、そりゃみんな、報告と併せて二重三重の驚きでしたよ。」
意味わかんね。長門が何故そんな俺を貶めるようなことを言う?
統合思念体の実験か何かか?それとも長門流ジョークか?
だいたい長門が頬を赤くする?微笑む?想像がつかん、というよりあり得ない!
「なんでも昨晩長門さんの告白に応じて、デートはあなたから誘われたんだとか。あなたも結構手が早いですね。…いえ、これは悪い意味ではありませんよ。」
そう言いながら古泉はクスクスと声を殺して笑っていた。
くっそー、悪い意味じゃなきゃなんだってんだ。
昨日の夜に告白して、俺からデートに誘っただと?
俺は昨日の夜のことを思い出してみる。
確かに長門と連絡は取った。しかし、あれは長門が写真に興味を持ってだな…
そしてフッとやりとりの言葉が脳裏を横切った。
『~付き合ってほしい。もっと写真の事を知りたい。』
『~付き合ってほしい。もっと写真~』
『~付き合ってほしい。~』
『~付き合ってやる。俺も今その事を考えていたところだったからな、何処でも連れて行ってやるぞ。そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
『~付き合ってやる。~何処でも連れて行ってやるぞ。そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
『~付き合ってやる。~そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
あの時の言葉。もしかして、あれって長門流告白だったのか?
そして俺の言葉は、告白を受けた挙句にデートの誘いをしたって事なのか?
いや、まてまて。その前に俺はあれが長門の告白だと思ってた訳じゃないし、いやだからといって長門のことが嫌いというわけじゃない、むしろ好きなくらいだ。
ん?好きなら付き合ったってイイんじゃねーか?ってなんか考えが脱線してるぞ。えっとまずだな…ブツブツブツブツ…
俺の頭の中は完全にショートしていた。
「・・・あ・・・あの・・・」
ブツブツブツブツ…
「あのっ!考え事中に申し訳ありませんが、どうします?このまま帰宅されますか。それとも…部室へ向かいますか。」
「帰宅するっ!!!」
古泉の質問に即答する俺だった。
俺だって虫の居所が悪い虎が居ると分かっている檻にのこのこと入っていくバカじゃない。
ここは兎に角退散だ。虎穴に入ったって虎子が居るとは限らない。君子危うきに近寄らずだ。
俺は、早急にこの場を立ち去ろうと思い、部室に背を向け一歩踏み出した。
そして、それはその第一歩を踏み出すと同時のことだった。