カメラがモタラシタモノ 11-06
何だ、何だ。突然のことに携帯を振ったり、ディスプレイを指でトントンと叩いたりしてみたが反応がない。
もしかして写真を見たらデータが全て消去されるようにプログラムが仕込まれていたのか?
とよく見るとブラックアウトしたディスプレイの左上に見覚えのあるものを発見した。点滅するアンダーバーだ。
すると俺が確認するのを待っていたかのようにスルスルと文字が現れた。
「今、いい?」
「ああ」
「今日はありがとう。」
「かまわないさ。」
「私はまだまだ知らないことがあると言うことが今回のことでわかった。知識のみでは分からないことが多い上にそこに齟齬が発生する可能性が大きい。そのため自ら体験し経験を重ねることも時として必要であると理解した。このことは情報統合思念体やその端末である我々、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースですら軽視していた。このことは速やかに修正する事項と考える。そして、これは情報統合思念体が目指す自立進化への手がかりの一片となる可能性もありうる。あなたや鶴屋さんの功績が非常に大きい。あなた達二人には感謝をしている。そして…」
待て待て。文章長すぎるし、速すぎる。
流れるように表示される文章に、俺は「待て、電話する」と割り込みをいれた。
長門は思ったことをディスプレイに表示させているだけだろうが、俺の方はいちいちボタンを押して文書制作をせにゃならん。俺は高速で携帯メールを打つ事なんて出来ないからな。手間がかかって仕方がない。そんなのは不公平だ!
「了解した。」の言葉を最後にブラックアウトしていた携帯のディスプレイが元に戻った。
まったく普段無口のくせに、どうして文章だとこうもスラスラと言葉が出てくるんだろ?
『ハァ~…』っと一溜息をついた後、俺は元に戻った携帯のアドレスから長門有希を選び通話ボタンを押した。
『プ・プ・プ・・・』という発信音の後コール音がすることはなかった。まるで受話器を持って掛かってくるのを待っていたような早さだ。
「もしもし、長門か」
「・・・」
「あー、俺なんだが…」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「声出せよ。話があるのはお前だろ。」
「…そう。」
おいおい長門、電話になった途端無口に戻るのは勘弁してくれ。
そりゃ饒舌な長門ってのも想像できないが、用件ぐらい喋ってくれ。
「でも………電話をかけてきたのは、あなた。」
ガクッ
あのなぁ~…電話してきた方がペラペラと喋らなきゃならないってのは何処の国の約束ごとなんだ?まったく頭が痛いぜ。
「長門よ、確かに電話を掛けたのは俺だが、そりゃメールより話の方が手っとり早いからだろうが。さっさとメールの続きを話せよ!」
「怒らないで。」
「いや、怒っては無いが…兎に角話してくれ。」
「私は『会話』というコミュニケーション能力が欠けている。そのため話に齟齬が発生する可能性がある。」
「あぁ、その話は初めてお前から宇宙人やらハルヒが特別やら聞かされた時に聞いたし、今まで散々お前と付き合ってきたから大丈夫だ。」
「そう。なら本題に入る…」
ふぅ、やっと本題に入ってくれるか。これならメールの方が早かったのかもしれないな。