カメラがモタラシタモノ 11-02 | 和楽衣生活

カメラがモタラシタモノ 11-02

 「おんやぁ、どこかで聞いたことがある男前の声がすると思ったらキョン君じゃないか。どったの?」

 「あれ?鶴屋さんこそ、福引のテントでどうしたんですか?」

 「いや何ね、親父の会社が協賛してるから。手伝いに駆り出されてるんよ。」そう言うと鶴屋さんはハンドベルを持ったオッサンと同じ法被を着てクルリと一回転した。

 同じ法被を着ても中身が違うと、こうも別衣装に見えるものかね。

 「キョン君は、あー…長門っちとデート中だったの…かな?」

 鶴屋さんは俺と長門を交互に見てちょっと気まずそうに首を傾げて言った。

 「いえいえ、俺は買物途中で、偶然長門を見掛けたものですから、たまたまです。」

 「いいんよ、いいんよ。言い訳なんてしなくても。ハルにゃんには内緒にしとくからさ。でもキョン君の好みは長門っちだったんか。そか、そか。」

 鶴屋さんは、頭の中で勝手に妄想を膨らませ、勝手に納得した。

 …って、冗談じゃない! 「つ鶴屋さん、違うんです。誤解です。本当に偶然に会っただけなんです。信じて下さい。ついでに言っておきますが、ハルヒも関係ありませんから。」

 俺は力の限り訂正した。ここで誤解を解いておかないと後々絶対に面倒な事になるに決まってるんだ!

 「長門、お前からも説明してくれ。」

 長門に助けを求めると、こんな時に限って視線を合わせなかった。おいおい頼むぜ、長門。

 「まぁそういう事にしといてあげるよ。それよりここにいるって事は、もしかして福引やんのかい?」

 「そうだった、福引きやりたかったんだろ長門。そこのレバーをぐるっと一回転させると玉が一つ出てくるからな、その出玉の色の賞品が貰えるぞ。」

 長門は俺の説明通りガラポンのレバーを掴みゆっくりと回しはじめた。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ…コトン

 中の玉を掻き混ぜる音をたてながら、ゆっくりと一回転したガラポンがその穴から玉を一つ排出した。

 コロコロと受け皿を転がる玉を俺と鶴屋さんとハンドベルのオッサンが凝視した。

 「赤…」

 その途端にカラン、カラン、カラン、カランと大きくハンドベルが鳴らされ、オッサンが「大当たり~!」と叫んだ。

 「ウヒョヒョ、長門っち凄い凄い!やるじゃないか。」

 鶴屋さんも些か興奮気味である。

 まさか特賞でも引き当てたか?

 …と思ったらオッサンから発せられた言葉は、「おめでとう。3等賞出ましたー!」だった。

 だが3等でも大したものだ、俺なんて残念賞しか出したこと無いからな。

 「長門っち、おめでとう。3等の賞品は、薄型デジタルカメラにょろよ。」

 「良かったじゃないか長門。お前カメラとか持ってなかっただろ。」

 「ない。」と一言いうと鶴屋さんが差し出した包みを手にした。

 「でも特賞じゃなくて残念だったにょろね。」

 「あははは。特賞なんて出したくても出るものじゃないでしょ。ところで特賞の賞品は何だったんですか?」

 「ふふふふふ…」

 鶴屋さんは、腰に手をやり不敵に笑った。

 「聞いて驚くなかれ、特賞は、なななんと二泊三日の温泉ペア宿泊券にょろ。凄いっしょ!」

 鶴屋さんは『どうだ』と言わんばかりに胸を張った。

 いや、結構在り来たりだとは思うのだが…しかし、んなもんが当たらなくて良かった気がする。

 というより、学生でしかも長門が貰ったところで、どうする事もできないだろ。学校も休めないし、長門が誘うような人物ってのも思い当たらない。

 などと、口に出せるわけもなく、俺は「おお、凄いですね。でも学生には温泉旅行なんて不釣合いですし、デジタルカメラで良かったですよ。」

 そう言ってニッコリ笑う俺に鶴屋さんも「そだね~」と更に上級の笑いで答えてくれる。

 このまま鶴屋さんと世間話をしていても後ろで散々待たされた挙句、上位商品を1つ持ってかれた籤引き待機メンバーに申し訳ないので、「長門、後がつかえてるから行こうぜ」とその場を後にすることにし、俺の言葉に促されたのか賞品を両手で持ち福引のテントを離れた。