ボツ企画書の夜明け

ボツ企画書の夜明け

ドラマのボツ企画書たち。彼らがいつか公共の電波に乗る日を夢見て。

このブログ内の物語は全てフィクションです。

登場する人物は、キャスティングイメージであり、

実在の人物の画像を使用していますが、本人とは全く関係ありません。

また、建築物も、ロケ地イメージであり、

実在の建物の画像を使用していますが、全く関係ありません。


私は企画だけで、脚本を書く能力はありませんので、

脚本を書ける人、脚本家に成り立ての人など、

興味を持っていただければ、コラボできればと考えております。


日に日に新しい記事を更新と言うより、

過去記事の細部を直しながら、物語を進めていこうと思ってます。

  

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山田は、インターネットを開いた。
数回クリックして目的のサイトに着く。

『「王様のブランチ」でも紹介された!行列のできる話題のお店!!』
『1日100個限定クレープ!そのお味は!?』
『人気モデル唐沢ゆいちゃんオススメ!絶品スイーツ!!』

しっかりとライティングがしてある商品の写真を見る。
この店の店長の声が頭に浮かぶ。

「最近色々なメディアの方が取材したいって言ってきて大変なんですよぉ」

当たり前だ。一つのメディアで扱われると、そのメディアを見た同業者が取材を申し込む。
今の世の中、他と比べてそう抜き出ている店などない。
だが情報系の雑誌やテレビは毎週、購読者・視聴者にネタを提供しなくてはいけない。
ネタが枯渇しているのだ。

その紙面の穴埋めに、他社が薦めているという理由だけで、店が選ばれる。
いざ、新規開拓で申し込みをしたものの、メディアの取材を受けない店だったり、全くの素人だと取材時、発行・放送後に揉めたりするので、他社が取り上げた店は扱いやすかったりするのも理由の一つだ。

山田にしても、新人の頃は東京ウォーカーを読んで取材先を選ぶ先輩に腹を立てたものだ。
しかし、締切前の徹夜作業を重ねていくうちに、いつしか先輩と同じように他誌を読むようになった。
効率を求めるようになった。それは仕事が「作業」になる瞬間でもあるが、一人の人間が1週間で取材に行ける件数は限られている。そのすべてが使えるオイシイ店とは限らない。そして締切は否応なしに訪れる。
ボロボロになりながら、上司にネタを叩かれながら、いつしか「オススメのお店」が何なのか、どうでもよくなってしまった。

どこかのメディアが「美味しい」と謡い、「限定」という枕詞がつき、女性に人気のあるタレントが太鼓判を押せば、ネタとして成立するのだ。
締切直前に上司にネタのダメ出しをされることもないのだ。

そうやって我社がこの店長の店を味も魅力も分からぬまま紹介し、それを見た別の他社がまたその店を紹介する。
情報の受け手である消費者は、たくさんのメディアで取り上げられているというだけで店を訪れる。
そしてやがてその店は押しも押されぬオススメ店となる。
消費社会の健全な効率的経済運動ではあるが、誰もその店の味を知らない。知る必要がない。
このことに山田は今でもたまに疑問を感じる。

答えは今日も出ないまま、山田はビデオボックスに向かう為、パソコンの電源を切った。
けだるい午前、とある仕事を終え、山田健二は煙草を吸いに喫煙所に向かう。
就職活動情報誌の「学生たちの就職したい企業」アンケートで、毎年、見事ベスト10に入る山田の会社は、東京都港区の一等地で隣接する他社を見下ろすようにそびえ立つ。

煙草に火をつけた。ため息と一緒に煙を吐き出す。もう今日はすることはない。
先週半ばまでの鬼のような忙しさが嘘のように、フロアは静まりかえっていた。
まだ皆さん出社されていないのだろう。

澄みきったライトブルーの空と、玩具のようなミニチュアのビル群の境目を見ながら、山田は煙草を灰皿に捨てた。遠くに富士山が見える。
あの山が見えるなんて、天気がいい証拠だ。

富士山はいつもあそこにそびえている。俺が生まれる前からずっと。
生物の「生」を、そして「死」を見つめてきた。
今、彼は何を思うのだろう。
繰り返される1日。止まらない世界の紛争。株価の上下。浮気。嫉妬。そして、誕生。
彼はそこに意味を見つけることができただろうか。
人間は意味を求めることを知っているだろうか。
そして俺が、夢はいつか叶うと信じたふりをして生きていることを。

山田は、また煙草に火をつけた。
映画監督になりたかった学生時代の山田。

実現は宝くじで…。
煙草の灰と同じくらいに脆い夢を消して、山田はデスクに戻る。
セブンイレブンに寄って「お好みのり弁当」と缶コーヒー「BOSSプラスワン」を買って家に帰る。
遅めの晩御飯を食べながら、予約録画しておいたテレビ朝日「ナイナイナ」を見ていると、ケータイが鳴った。

「ウイっす~。お疲れ~。もうバイト終わったぁ?」
大学のゼミ仲間の西川だった。
深夜2時を過ぎているが、電話の向こうはザワザワしている。

「今、サイゼにいるんだけどさ、ちょっと出てこれる?」

テレビにはナインティナインの岡村が、何年間も放置していたという炊飯器を前に、ハシャいでいるところが写し出されている。

「日曜の海に行く計画さ、今、琴美たちと詰めてるんだよ」

そうだった。
琴美のまだ見たことがない水着姿が頭に浮かぶ。
琴美は、同じ授業で知り合った神奈川出身の女の子だ。
ちょっとロリコン体形ではあるが、魅力的な胸をしていた。
言葉遣いが少々悪いが、人間関係、特に上下関係をとても気にする女の子だった。
本人は否定しているが、高校時代はヤンキーだったんじゃないかと、山田と西川は推測している。
度重なる勧誘が巧を奏し、先週、琴美は海に行くことを受け入れてくれた。
地元の親友だという、小池由美子を連れてくることも。
山田は浜崎あゆみに似た由美子に惹かれていた。
と言っても、1度しか遊んだことはなかったけれど。

「ナイナイナ」の続きが気になるところだが、山田はリモコンの停止ボタンを押し、10分ほど前に脱いだばかりのジャケットを羽織り、ヘルメットを被った。
炊いたご飯を何年も炊飯器の中に入れておくと、どうなるのか?
その結果は、朝、帰って来てから見ればいい。
どうせ明日、正式には今日だけれど、大学の講義はない。予定は17時からのバイトだけだ。
朝寝ても、十分に睡眠は取れる。時間はいくらでもあるのだ。
万一、寝坊してしまっても、シフトリーダーである自分を店長は怒らないだろう。
何か言われたら辞めたっていい。
友人が働いている古着屋で、ショップの店員をやるのもいいかもしれないな。

そんなことを考えながら、エンジンがまだ冷えてない原付にまたがり、スロットルを回した。
深夜の心地良い風が頬をなでる。
湘南の海で、弾けるような笑顔と身体の由美子を、そして、その横で彼女を見つめる自分を想像し、山田は更に速度を上げる。

そうだ!夜は絶対、花火をしよう。

虫の音を聞きながら、山田はサイゼリアに向かった………。

そこで映像は停止した。
電車が会社の最寄り駅に着いたからだ。
学生時代の記憶を振り払い、山田はいそいそと改札を抜けて、由美子のいる湘南ではなく、会社に向かった。
新緑が眩しい5月の空。カラッとした空気の間を、心地よい風が吹きぬける。
昼過ぎから真夏並みの気温になる、と年下のお天気お姉さんはブラウン管から微笑んでくれたけれど、午前中の今は、二度寝したくなるほどに気持ちがいい。

一般のサラリーマンよりは遅めの出勤。山田はいつもの電車に乗る。

山田の勤めている会社には、特に決められた始業時間はない。与えられた業務を与えられた期日までに片付ければ、何時に会社に来ようが帰ろうが自由だ。
それでも入社したての頃は、先輩らに気を使って早く出社していたものだが、最近は、どこ吹く風で悠々と、一般企業の重役ばりの出社時間である。

決められた始業時間がないにも関わらず、いつも同じ電車に乗る理由は1つ。
山田の自宅の最寄り駅から2つ目の駅で乗ってくる「彼女」に会うためだ。
社会人であろうが、いつもラフな格好な彼女。その姿を15分間、横から盗み見るためだけに、業界的には少し早い時間に山田は起きる。
1人で乗ってくる彼女。声を聞いたことがないし、もちろん、笑顔も見たことがない。
もう半年間、毎朝、彼女と出会い続けている山田は、彼女の服装から、今、世間の流行を知り、季節の移り変わりを知る。今日の洋服は○○だった。
彼女と今後、話をする機会があると信じるほど、山田も若くない。
毎朝、彼女がもう少しベットにいたい気持ちを振り切りながら、同じ電車に乗るのは、仕事に間に合う電車だからであって、それ以上でも以下でもない。
彼女の視線は、いつも車内に振りまかれることなく、手元の文庫本だけに注がれる。耳にはiPodから伸びた淡いピンクのイヤホンが差し込まれている。
完全に外界を遮断している彼女。毎朝、同じ車内にいる山田に訝しげな視線を送ることも、週に2回は同じ服を着ている山田に嘲笑の視線を送ってくることもない。山田の存在すら認識していないのだ。
例え、何かしらの奇跡が起こったとして、山田と彼女が冗談交じりの会話をすることができたとして、彼女を食事に誘うことはない。何故なら、山田は彼女が好むような店も話題も知らないからだ。
自分の容姿が男性にどうゆう感情をもたらすか、充分に理解している彼女。きっと昔から、学校でクラス替えがあれば新しい男から声をかけられ、バイトを始めれば新しい男から声をかけられ、スノボに行けば新しい男から声をかけられ、合コンに行けば複数の男から声をかけられ……。そんな彼女を楽しませる話術も肩書もアイテムも持ってない山田。自分でも認識していた。眺めるためだけの女性だ、と。

もし仮に、もし仮に、チャンスがあるとしたら、今、乗っているこの電車が脱線事故を起こしてみたり、大地震に見舞われてみたりするほかない。生死を賭けた状況でしかない。
そうでしかない。
山田健二、29歳。独身。彼女なし。
出世の見込みなし。

ここにいる自分は、本当の自分ではない、仮の姿だと信じている、信じようとしている、どこにでもいる29歳のサラリーマン。

今の会社は、……もう何社目だろ。夢を追うことを理由に、不満から逃げ出し続け、ウロウロした結果、たどり着いた場所。
骨を埋める覚悟で入社したのに、やっぱりココにも不満がある。契約社員だし?潰れるって噂もあるし?
本当に自分の見る目を疑う。
今の自分は、在るべき本当の姿じゃない。だけれども、真実へ向かう分岐点は、現状、見つからない。
過去を振り返ると、それが過去という変えようのないものになったからこそ、そう見えるのだろうが、たくさんあったように思える。
大学時代、小池らと一緒に公務員試験の勉強をしていれば……。赤城らの言うことに、きちんと耳を傾け、仕事としてやりたいこと、自分にできることと、趣味として続けたいことを分別していれば……。
新卒就職活動時代、持ち前の盲目さを生かして、就職試験の意義を信じて疑わず、闇雲に企業研究、自己PRを続けていれば、そして、面接官の望むことを話していれば……できたかどうか分からないけど。馬鹿みたいに1日10時間も大学受験勉強してきた自分なら可能だったかもしれない。
早々に夢を諦めて、将来の夢と現実を比較するのを止めて、従順に最初の会社に勤め上げていれば……。
きちんと出世レースに参加し、学生時代のマラソン大会で何度もやってきたように、誰かの後ろにピッタリと張り付き、向かい風を避けながら、最後の最後で、前の走者の足をひっかけ、1位でゴールすることを目指していれば……。
今とは違う自分が此処にいたであろうに。

月曜日の明け方、もう数時間後には会社に行かなくてはいけないのに、山田は眠れずに何度も寝返りを打つ。
うっすらと夜が明け始め、東の空からの淡い光が、煙草の煙が充満する部屋に神秘的な線を描いている。

先週と、先々週と同じ一週間の始まりだ。
生きる希望がない

明日全てが終わってしまえばいい

死んでみる?

逃げたと思われるのもしゃくにさわる

それに、自分が死んだ後にとびきりハッピーな出来事が起きるのも嫌だ

死んでもいいけど、mottainai気もする

どうすればいい?



そうか、みんな死ねばいいんだ

地球にいる生物すべて

老いも若きも

それしかない

……

問題はどうやって皆さんに死んで頂くか、だな
俺はどこにでもいる平凡なサラリーマン。
アパレル関係の仕事、そういえば聞こえはいいけれど、
郊外に店舗を構えるカジュアル服店の店員だ。
合コンのとき、店の名前は決して出さない。
度重なる社内試験に合格し、来年はいよいよ店長になれそうな予感。
今の仕事をしていて、多少将来に不安はあるものの、満足はしている。

バイトの子は大学生、高校生ばっか。

彼女も大学生2年生だ。
顔は正直、平均以下だけれど、性格がいい。

そして、俺にはもう一人、彼女がいる。
OL2年目のめちゃ美人。

今の生活に満足している。
うん、満足している。

女性たちの皮膚に変化が現れ始めた。
ただれ始めた。
皮肉にも「美」を追い求めていた女性ほど、
化粧品を用いていた女性ほど、その症状は重かった。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、
日本では、色黒ブームが起こった。
若い女性たちは「日焼けサロン」に通い、その素肌を焼いた。
若いその肌を室内機のなかで人工的に焼いた。

若さというのは、それだけで無償の価値がある。
化粧品を塗り込まずとも、そのなかに溢れるほど「美」を宿している。

しかし、若き女性たちは「人工的な美」を求めた。
「画一的な美」を求めた。
他人から「美」だと認められることは、気持ちのいいことであったし、
この飽食飽和の時代に生きていくうえで得であると知っていたからだ。

「シンデレラ」は美しかったからこそ、王子様に見入られた。

食べるものがないわけではない。
戦争に行き、殺し合うこともない。
飛行機が墜落することも、電車が脱線することも、
自分にとっては絵空事だ。
平穏な毎日を過ごし、恋愛をし、受験をし、
就職をし、結婚し、出産する。
そんな普通の人生、それがとても得難いものではあるけれど、
そのレールを歩むとき、「自分は他の人とは違う」
「他の人よりも楽しみたい」と考えると、
「美」を持つことは、とても有効な手段となる。

メイクの方法を雑誌から学び、日々美しくなっていくことは、
学術と同じように充実感を得られる行為でもあった。

そして何よりも、美しい女性には男性の態度も変わる。
女性は幼い頃から感じることであった。
綺麗な女の子には、男の子の態度が違かった。先生すら違かった。
カワイイから女優として生きていけるのだし、
カワイイから歌手として歌って生きていけるのだし、
カワイイからアナウンサーとしてスポーツ選手と結婚できる。
幼い頃からテレビを見ていれば誰もがそう認識してしまう。
女優として歌手としてアナウンサーとして
業界で生き残っていくには、それだけでは無理なのだけれども、
ブラウン管はそこまでは教えてくれない。
ただ、女性は美しいほうが得だと暗に語るだけだ。

そのような環境のなかで育ち、
若い頃から化粧品を使用してきた女性たちの肌がただれ始めた。
彼等は犠牲者である。


2010年11月5日。
政府がある声明を発表した。
今や、どの化粧品にも配合されている成分「キレイニナール」に、
原因不明の皮膚病を誘引する可能性があるというのだ。
女性は、同成分が含まれる化粧品の使用をただちに止めるようにとのこと。
そして、化粧品会社は早急に同成分を使用しない化粧品を製造せよとのこと。

新聞、週刊誌の紙面はすぐさま、このニュースで埋めつくされた。
「キレイニナール」に皮膚病を誘発する原因があることを、
化粧品製造会社は知っていたのか。それはいつからなのか。
メディアの犯人探しが始まった。

そしてインターネットの世界では、掲示板、ブログを通して
個人の情報交換が行われた。
「最近、皮膚が荒れてきた…」
「シナチク化粧品の商品を使ってた友達が病気になった」
「友達の友達のお父さんが巨大化粧品会社の社長なんだけど、
キレイニナールが問題のある成分だと1990年代から分かってたんだって」

皮膚病の予防検診をうたった新手の訪問詐欺も、全国各地で発生した。

「キレイニナール」が世間を騒がせているなか、
化粧品会社からの収入が、全体の●割を越えるテレビ業界だけが、冷めたていた。

テレビは25~35歳の女性をメインターゲットにしている。
彼女たちが一番視聴している時間帯、21~23時など、
ほぼ全ての番組に化粧品会社がスポンサーとして番組制作資金を提供し、
販売促進CMを放送電波に乗せていると言っても過言ではない。

そんな冠スポンサーに気をつかってか、
テレビ業界だけが、この事件に関して及び腰だった。