暗い部屋 その部屋にいるのは 一人の少女
しかし暗がり故 その少女の容姿については うまく説明できない
…………
涙が ふと 零れてきた
こんなもの 流れないでほしい
ただの塩水じゃん こんなもの とまれ とまれ とまれ!
その時だった 男声なのか 女声なのか よくわからない 不思議な声が聞こえたのは
いや 聞こえたという表現は 間違っている気がする
その声は 耳を介さず
そう 心に
私の心に 語りかけている ……そんな気がした
「苦しいの?」
なによそれ 余計な御世話
私も 心で答える
―― 苦しくなんかない
そうすると その声は あれ?ちがうの? という風な感じで
再び質問を続けてきた
「悲しいの?」 ―― 悲しくなんかない
「つらいの?不安なの?」 ―― つらくない。 不安なんかない。
「じゃあ…… 何故? なぜ君は涙を流しているの?」
―― えっ ……?
なぜ 涙が 出てくるんだろう …… ?
…………
ある昼下がり **高校 3年A組の昼休み
ある3人の女生徒が ふたつの机を向い合せにくっつけて おしゃべりを楽しんでいる
くら~い こわ~い表情で 3人のうちのひとり ララは
どことなく ほわ~ とろ~ん とした彼女独特のしゃべり方で こう言った
「それでねぇ~ その人はぁ 涙を流す女性を見つけるとねぇ……
その女性を …… な、なんとっ たべちゃうんだってぇ~~!」
ララの脳内で展開される 次のふたりの行動は こうだ
(イチハ、ミズキ …… さぁ、怖がりなさいっっ
「ええ~?!な、なによそれ、こ……こわっ!」 って、あなたたちはそう叫ぶの!)
しかし 現実はそう甘くなかった
そこらの女生徒達を軽く超えるような長身で すらりとしたモデルのような体格の イチハ
身長は平均並 髪型もセミロング それでもどこか他の子とは違う 可愛らしさを醸し出す 言うなればミドル級チャンピオン ミズキ
そんなふたりの口から発された言葉は、
「ええ~?!な、なによそれ、もっと怖い話だと思ったのに!!」
どうみても 二人の表情から読み取れる心情は ひとつ
うん、がっかり
「…は?」
思わぬ反応に ララの思考は この不意打ちにすぐには反応できず
思わず こんな気の抜けた言葉を発してしまった
「ちょ… えっ? ねぇ こわくないのぉ~~?!!」
ララの必死の反論は 昼休みの終わりを告げるチャイムとともに 教室中に響き渡った
当然そこで 彼女たちのおしゃべりは 中断されることとなってしまった
…………
つづく