待ち合わせ場所に着いて、彼が私の車に乗り込む。
その顔を見ただけで涙が溢れて止まらなくなってしまう。
「もう泣いてる」
困ったように笑って、いつもと変わらない優しい手つきで頭をポンポンする彼。
そんな事をされると、ますます涙が止まらない。
もう、最後なんだから笑顔で見送りたい。
彼を困らせたくない。
そう思えば思うほど涙で彼が滲んで見える。
「いよいよ離れちゃうね…」
ポツリと彼がつぶやく。
頷く事しかできない私。
こんな事になるだろうと予想出来ていたので、私は彼に手紙を書いてきていた。
彼に伝えたい事は沢山あったけど、面と向かって上手く伝えられるか分からなかったし、ちゃんと整理してきちんと手紙に書きたかったからだ。
私は迷いながらもバックから手紙を取り出した。
「これ…帰る途中のどこかで読んで。読んだらすぐ捨てていいから」
彼の顔を見るのが怖かった。
手紙なんて渡したら、重いと思われるような気がして最後まで渡すのを躊躇していた。
恐る恐る彼の顔を見てみると…
…驚いた。
いつもクールで冷静な彼がボロボロ涙を流して泣いていたのだ。
「…どうしたの?」
彼の涙に驚いて、泣いていた自分の涙が止まってしまった。
「手紙…書いてくれるなんて思ってなかったから…ありがとう」
「そんな…お礼言われるなんて思ってなかった…」
そう言いかけていたら彼は力強く私を腕の中に引き寄せた。
ふわっと、大好きな彼の香りに包まれた。
…もう、この香りも当分感じられないんだ…
ぼんやりとそう思っていると。
いつもはあまり自分の気持ちを話さない彼がポツリポツリと話し始めた。
「…泣かないって決めてガマンしてたのに」
「…うん」
「…本当に木村さんと出会えて良かった」
「うん」
「こんなに人を好きになった事、初めてだった」
「…うん」
「…初めて手を繋いだときの事覚えてる?」
「え?」
「あの、初めてホテル行った日のこと。なんかさ、キスした時より手を握った時の方が本当に緊張して、ドキドキして。中学生かよって思ったくらい。あんな気持ちになったの初めてだった。…覚えてないか笑」
…本当にビックリした。
私が初めて手を繋いだ日に今まで感じた事のないドキドキを感じていたのと同じ事をカレも思ってくれていた。
それだけでもう充分だった。
「木村さんが幸せになるのをいつも願ってます」
「いつか絶対また会おう。それまで向こうで頑張るから。だから木村さんも頑張って。お互いの幸せを祈ろう」
止まっていた涙がまた溢れ出る。
このままずっとこうしていたい。
離れたくない。
本当に大好きだった。
愛していた。
でも、もうこれ以上彼を困らせたくない。
私が今出来ることは桜井さんの幸せを願って、私自身も幸せになる事だ。
「そろそろ行かなきゃね…」
そう言って、彼の胸から離れる。
頑張って笑顔を作る。
「まあ、またすぐ会えるしね!」
冗談っぽく言うと、彼も切なそうな笑顔を浮かべて「うん、遊びに来てね」
と有り得ない冗談で返してくれた。
「じゃあ、またね」
彼が私の車から降りてドアを閉める。
私が出発するまでずっとその場から離れない彼。
私は精一杯の笑顔で手を振りながら車を走らせた。
バックミラーを覗くと、遠くになっていく彼がまだこっちを見て立っていた。
小さくなっていく彼。
その姿を見て、私は声を上げて泣いた。
ガマンしていた気持ちが溢れて抑えきれなくなっていた。
その日は、皮肉にもクリスマスイブだった。
毎年クリスマスイブになるとこの日の事を思い出すんだろうなとふと思いながら。
これだけ泣いても、家に着く頃には笑顔で帰らないといけない。
私は涙を拭いて、腫れているまぶたにペットボトルをあてる。
そして、子供たちの待っている家路に急いだ。