「ん〜…今日ぐらい屋根いらんくない?」
“いやぁ…雨がいつ降るか…”
“レーダーでもじきに降りそうですし”
「そぉ?降らへんと思うけどなぁ…」
格子窓の向こうに見える空を見上げて その下に組まれたステージを見る
たくさんのファンと一般の参拝者が入り乱れる空間の隅には御朱印をいただく長蛇の列が見える
「ふぅ…」
去年立つことを許されなかった場所に立つことができる喜びと会いたい人が旅立ってしまったことへの哀しみと打ち寄せる想いにヘタリと腰をおろした
“大丈夫ですか?”
「大丈夫」
自分の想いと
周りの想いと
あの時 何が正しかったのかは正直わからないし あの時我慢したからこうしていられるのかも知れないし
未来が見えたらと思うわけではないけれど手探りすぎる日々を過ごし周りに迷惑や心配をかけまいと振る舞った毎日は自分を殺しているに等しかった
あれもダメ
これもダメ
こうなってしまったことへの怒りや絶望を何度自分に言い聞かせて外に逃してきたのだろう
「…」
別にわかってほしいわけでもないし
正しくわかってくれるはずもないし
心無い声だって聞こえるし…
それでもボクはここに帰ってきたかった
“一旦閉門するんでサウンドチェックお願いします”
「はーい」
スタッフについてステージに上がると本殿に向かって手を合わせた
このステージが無事に終えられますように…
「…さ。やりますか」
キュッとマイクを握って音の感覚を確認する
「ん〜 やっぱないほうがボクはいいけどなぁ…」
演出含めテントがあるとどうしても音がこもる
“ん〜…………”
渋い顔をしてなかなか首を振らないのは安全面や体調を考慮してだろうけど濡れるなら みんなで濡れたらいいやん?と思っているボクからしたらボクだけという状況がイマイチ腑に落ちないけど…
薄明るく雲が垂れ込めている空
「まぁ………天気予報に任せます ボクは外してほしいけど」
そうスタッフに伝えてステージを降りると見慣れた後ろ姿があった
『剛』
「こぉいちやん?どしたん?」
『来た』
「え?来たってお前…仕事…」
『舞台終わったから ちょっとだけな』
「ほぇぇぇ あ、そう」
『どっから声出してんねん』
「いや 驚きすぎた」
『雨大丈夫そ?』
「んー。ボクは降らへんと思うけどね」
『…………あー……そゆことか』
「うん」
ボク越しにステージを見ると納得の表情を浮かべた彼は複雑色をしたかと思うとすぐにふわりと笑った
『ま。どんな状況でもアナタが立てば良いステージになるでしょ』
「…………まぁそうやけど」
『見てるから』
「……」
『剛のこと見てるから… 歌って』
ーオレのために
なんてクサイ台詞が聞こえてきそうで顔に熱が集まってくる
「お前……無自覚か?」
『ん?』
「いや…」
そっか
そうやんな
過去を振り返っても
あの日を惜しんでも
戻るはずのない日々は事実であり
それは永遠に変わらない
「じゃ行ってきます」
『おん』
「こぉいち」
『ん?』
「ちゃんと見ててな」
『ん。行ってきて』
細い指がひらひらと揺れてボクの背中をおした
「……なぁ」
『ん?』
「ありがとう」
『……ん』
「…」
彼の顔を見ると自然と心が凪いでいく
「…ふぅ」
見上げた空は暮れはじめ
垂れる雲が朱に染まる
白い月が遠く出て今宵のステージを見守るのだろう
かぎろいの中にある凜とした空気
すぅ………
今日限りの夜をー
今しかない時が動き出した