TVアニメ「機動戦士ガンダム」にMS-09「ドム」というモビルスーツが登場する。

 

MS-09「ドム」
(機動戦士ガンダム公式Webより)
 

 それまでに登場したザク系とは異なる「口」のない十文字の顔(モノアイレール)、重装甲及び高速ホバー走行で、視聴者に強烈な印象を残した。
 ムック「ガンダムセンチュリー」では、高出力スラスターを搭載したモビルスーツの開発を得意とするジオン公国第2のモビルスーツメーカー「ジマッド(ZIMMAD:ドイツ語読みはツィマット)社」が開発したとされた。同社はOVA「機動戦士ガンダム MSイグルー」でモビルスーツ「ヅダ」のメーカーとされ公式の存在となった。

ジマッド社ロゴ


EMS-10「ヅダ」

 かつてジオン公国軍が採用を見送ったEMS-04「ヅダ」を改良した新型機として、総帥府のプロパガンダに使用された。

135mm対艦ライフルを携行するヅダ

 

モノアイレールはドムへの系譜を踏む十文字型


 EMS-04は、ジオン公国軍の主力モビルスーツ候補としてジマッド社が開発した試作機で、大出力の「木星エンジン」を搭載していたが、公開試験飛行で制御不能となり機体が空中分解したこと、1機当たりの生産コストがジオニック社のザク(旧ザク)の1.8倍であったことから競合に敗れたとされる。


空中分解を起こした木星エンジンの改良型とされる大型スラスター

 

MS-06RD-4

 ジマッド社がMS-06「ザクⅡ」をベースに空間戦闘での高機動化を図った技術実証機。初出はOVA『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』。
 同社は、ジオン公国軍の主力モビルスーツ競争試作に破れた後、ジオニック社の受諾生産を行っていたが、自社開発も続けていた。
 ジオン公国軍は、モビルスーツパイロットらの要望を受けザクⅡの高機動化を求めたが、ジオニック社は、スラスターの信頼性・制御の難しさ・燃費、ペイロード(火器・弾薬、燃料等の搭載可能量)の低下、生産コスト等の問題に直面した。

 

ジマッド社のMS-06RD-4(左)とジオニック社のMS-06R-1A(右) 

 

 両社の高機動型ザクⅡを比較すると、ジオニック社は人体に近い従来の形状をできるだけ維持しつつ各スラスターを強化しているが、ジマッド社は下半身の大部分を作り替え、ズダ並の大型スラスターの組み込みと多量の推進剤の格納を実現している。高機動化に当たり歩行能力を犠牲にする否かで生じた差と思われるが、ジマッド社には起死回生の決断だったろう。

 

ジマッド社は背面のスラスターに手を加えておらず、主スラスターを脚部に移す意図が見られる。

 

 急ピッチでモビルスーツの量産化を推し進める地球連邦軍に、宇宙での大規模反攻と相対戦闘力低下を危惧したジオン公国軍は、空間戦闘での高機動性に特化したMS-06RD-4を対モビルスーツ戦闘に有効と評価し、ジオニック社の後継機種開発も軌道修正を余儀なくされることになる。
 

YMS-08B

 MS-06RD-4をベースにした試作機。上半身にもジマッド社独自の改良が及び、後に登場するドムを彷彿させる。

 最新の公式メカニカル考証企画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN Mobile Suit Discovery」(MSD)で新たに設定された。

 

YMS-08B(写真は宇宙仕様)

 

 

 

 MS-08系は全てジマッド社製と見なされることがあるが、設定の変遷について書き留めておきたい。

YMS-08A

 講談社とバンダイが展開し、非公式ながら多くのファンを生んだメカニカル考証企画「モビルスーツバリエーション」(MSV)の一体。

設定の変遷

1.講談社「機動戦士ガンダムTV版ストーリーブック②」(1981)

 本書でガンダムのメカニックデザイナー・大河原邦男氏の書き下ろしイラストとして発表されたのが初。

 「ザクからグフへの改良過程の、試作モビルスーツ」とだけ解説されている。

「機動戦士ガンダムTV版ストーリーブック②」より引用

 

2.バンダイ「模型情報別冊・モビルスーツバリエーションハンドブック第一集」(1983)

 模型誌ライターの小田雅弘氏らにより、以下の設定が付け加えられた。

「MS-06Jの限界を見出したジオン公国は、白兵戦用に機動性を向上させたモビルスーツの開発に着手する。軍が発注したプランはYMS-07とYMS-08として平行して試作が進められた」。

「08タイプは主に接近戦、ゲリラ戦を念頭に置いて07以上の軽量化が図られ、研究中の推進エンジンを背中に装着、短距離のジャンプ飛行が可能な様に設計されたが、出力不足に悩まされ、コストとスペックが見合わず、結局は07のプランへ統合という形で却下された」。

「YMS-08Aは白兵戦用に軽量高機動のRX-78を参考にザクを改良したもの」。

 

3.講談社「機動戦士ガンダム モビルスーツバリエーション② ジオン軍MS・MA編」(1984)

 本書にも小田氏らが関わっており、以下の設定が追加されている。

「YMS-08Aの基本設計はFタイプのザクのものを流用」(本書別ページの図「陸戦用モビルスーツの流れ」ではMS-06F→MS-06J→YMS-08Aとされている)。

「五機の生産にとどまっている」。

 本書は、MS-07「グフ」の初の実戦参加を地球侵攻作戦の第3次降下としている一方、YMS-08AがRX-78「ガンダム」を参考にしたというモビルスーツバリエーションハンドブックの設定には触れていない(ガンダムの情報が開発段階で漏洩していたことになる)。

 

4.講談社「機動戦士ガンダムMSVコレクションファイル[地球編]」(2000)

「開発は後に09型を製作し、一躍その名前が知られることになるツィマッド社が行った」。

 ジマッド社製と初めて明記したのは本書と思われる。

 本書の監修はバンダイの川口克巳氏であり、スタッフに小田氏の名前はない。

   

 なお、小田氏は、双葉社のムック「MSV THE FIRST」で以下のように述べている。

「大河原さんの描かれた絵を見て、それをこちらが勝手に考察するというのが最初でした」、「当時は学生でしたし、NGは一度も出したことがないです」、「大河原さんはもちろんですが、MSVは色々な人が作ってきたものをそのまま使うのが基本方針でもあったんですよ」。

「ザクなのに連邦軍の意匠が入っていたりするので、我々の方では結構料理に苦労しました」、「デザインラインには連邦が混じっていますが、そこもなんとでも言えます」。

「『GUNDAM CENTURY』の中で、軍事メーカーが2つ書かれたのには非常にビビッとくるものがあったんです」、「でも、その設定はあくまでその時点ではオフィシャルなものではないので、絵を描かれる大河原さんには関係ありません」、「時には大河原さんが自由に描いたもので、競作メーカー同士のはずのメカが融合したものがあったりするんです。そういう場合は”そっと”しておきました」。

 

・MS-08TX「イフリート」

 家庭用ゲームに登場するオリジナルの特殊作戦機として人気を博した。OVA「機動戦士ガンダムUC」に派生機が登場し、名実ともに公式の存在となった。

「ジオン公国で唯一、地球侵攻部隊が開発に携わった。地球圏専用MS。特殊部隊に配備されたが、宇宙圏至上主義のジオン官僚によって、わずか8機しか生産されなかった」(任天堂スーパーファミコン用ゲームソフト「機動戦士ガンダム CROSS DIMENSION 0079」取扱説明書(1995))。

MS-08TX「イフリート」

(ゲーム「機動戦士ガンダム CROSS DIMENSION 0079」取扱説明書より引用)

 

・ 同ゲームのデザイナー・神谷春樹氏のツイート及びメディアワークスの同名攻略本のインタビューによると、イフリートはグフやMS-18「ケンプファー」を参考に「サムライ」のイメージで大河原邦男氏にデザインを依頼したもので、設定上はある試作機をベースにしているが、それはYMS-08Aを意識したものではない。

また、型式番号の末尾のXは試作機を意味しているが、当時、神谷氏は、型式番号頭書のYが試作機を表すMSV系の設定を知らなかった。

・ MS-08TX[EXAM]「イフリート改」が登場したセガサターン用ゲームソフト「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」(1997)のシナリオライターである千葉智宏氏のツイートによると、イフリートの「ベースになった機体」は当初から宇宙・地上両用として考えられていた(つまり地上専用機がベースではない)。

 但し、イフリートの派生機にグフのデザインを取り入れたものが多くなったことへの一つの回答として、漫画「ザ・ブルー・ディスティニー」の作中にイフリート改の修理にグフのパーツが使える記述をしたという。

 

 イフリートの設定は独自性が強く、ガンダムセンチュリーともMSVともリンクしていない。MSDの扱いにも変化が見られる。 

2015年頃のMSD設定公式サイトより引用

 

2019年8月現在のMSD設定公式サイトより引用