さよならセベ | 魚住了の 『ゴルフのどこがおもしろい!』

さよならセベ

初めてセベ・バレステロスに会ったのは、19924月のダンロップオープンだった。


当時、私は某ゴルフ用品メーカーの宣伝部にいた。

「はじめまして。お目にかかれて光栄です」と言って握手をしたかどうか、記憶はさだかではない。

とにかく、宣伝部に配属されて数ヶ月の私は、上司と一緒に契約プロであるセベの練習ラウンドに同行した。


茨城ゴルフ倶楽部東コースの1番ホール。

フェアウェイセンターからのセカンドショットで、セベは2番アイアンを手にした。

グリーンは遥かかなたに見える。


(アイアンで届くのか?)


私がそう思ったのも束の間、セベが、あの懐の深いスイングから放ったボールは、グリーンに落ちて止まった。

それも、2球続けて。


Iを、こんなに豪快に、こんなに優雅に、こんなに正確に操れるゴルファーがいるのか。

私の目は点になった。


あいにく本番でセベは予選落ちしてしまったが、世界トップレベルのゴルフを目の当たりにした思いだった。


今回、全盛期のセベを見て思うのは、とにかくカッコいいということだ。

文句なしのいい男である。

いま、ゴルフ界を見渡して、セベほどの美男子はいない。

若き日のボビー・ジョーンズもカッコよかったが、とにかくセベのあとにはあれほどのいい男は現れていない。


セベは、22歳で初めて全英オープンのタイトルを手にした。

翌年にはマスターズで優勝。

その後も全英を2度制し、マスターズも26歳で2度目の優勝を果たしている。

だが、メジャーでの優勝はそれが最後。

つまり、5度のメジャー制覇は、わずか4年のあいだに成し遂げられた。

メジャーで勝つには経験が要るというけれど、天才には不要なのかもしれない。

ただ、その後の成績を見る限り、20代半ばで燃え尽きたともいえる。


私が会ったときのセベは35歳。

少なくとも、気力のピークは過ぎていたように思う。

それに、やんちゃぶりはコースの外でも同様で、ビジネスの相手としてはかなり手ごわかったと記憶している。

おそらくエージェントも、マネジメントにはかなり苦労したのではないだろうか。


でも、何をしでかすかわからない危なっかしさこそが、セベの魅力だったのだと今は思える。


今後、セベのように強いプロゴルファーが出現するかもしれないが、セベほど人間くさくて、ファンに愛されるプロは二度と出てこないだろう。


体を“くの字”に曲げ、顔を傾けてボールの行方を追う姿や、何事かを叫びながら何度も繰り返すガッツポーズが、今はただ懐かしい。


さよなら、セベ。




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