★戦争が…反安倍教師が子供にデマ

【正論】 高崎経済大学教授・八木秀次 「日本を取り戻す」政策阻む面々 2013.7.9

 安倍晋三首相が「日本を取り戻す」として、わが国を主権国家に相応(ふさわ)しい体制に整えようとすると、それを阻止しようとする勢力が決まって右傾化、軍国主義、国家主義と批判し始める。始末の悪いことに、これが一定の影響力を持っている。

 ≪子供にも戦争の恐怖を煽り≫

 昨年12月の総選挙の直前、所在地も形態も異なる高校と中学に通う娘と次男が口を揃(そろ)えて、「安倍政権になると私(僕)たちは戦争に行かなければならないんでしょ?」と尋ねてきた。学校で先生から聞いたという。当時、同種のデマが全国の学校で出回っていたようだ。私は「現代の戦争はハイテク戦だ。訓練されたプロにしかできない。素人が自衛隊に入っても足手まといになるだけだ。徴兵なぞあり得ない」と説明した。子供たちは納得したようだが、戦争の恐怖を煽(あお)って安倍政権に嫌悪感を持たせる動きは早くから始まっている。

 首相が意欲を燃やす憲法改正は占領下で制定された現行憲法を主権国家に見合ったものに整えるとともに、現在進行形の中国の露骨な領土拡張欲に対抗するために必要な措置だ。96条改正をその入り口とし、9条2項を改正して自衛隊を憲法上に位置づけ、普遍的な軍隊の実質を与え、日米同盟強化のために集団的自衛権行使を可能にする-。これらは、急速に増大する中国の脅威に対抗し、戦争を避けるために不可欠である。にもかかわらず、反対勢力は「自民党は戦争をしようとしている」と憲法改正の方を逆に危険視する。


 基本的人権の制約原理として現行憲法が「公共の福祉」と呼んでいるものを、自民党の憲法改正草案が「公益及び公の秩序」と言い換えたことについても、戦時下の国家統制を持ち出して、言論の自由を含む基本的人権が大幅に制約されると危険性を強調する。自民党案は、わが国も批准している国連の国際人権規約(A規約・B規約)の人権制約原理(「国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」)を踏まえ、一部を採ったささやかなものに過ぎないのに、である。

 ≪憲法、教育問題でデマ宣伝≫

 考えてもみよ。日本ほどの先進国で、既に国家として批准しているさまざまな人権条約に反する統制的な体制を築けるわけがない。国内には多くの外国人や外国メディアが存在し、彼らも対象となるからだ。国民に恐怖心を持たせて憲法改正そのものを阻止するためのデマが流されている。

 首相が経済再生と並ぶ最重要課題とする教育再生についても例えば、教育科学研究会という団体の編集する『教育』6月号(かもがわ出版)は、「『安倍教育改革』批判」とする特集を組み、「安倍首相は『愛国心』などの理念を徹底するために、教科書検定制度の見直しを迫る。過去の歴史の過ちへの反省は『自虐史観』として排除する。その行く先には『憲法改正』と新たな権力支配の構図が見えてくる。『国家主義教育』への暴走が待ち構えているだろう」と書いている。


 教育再生実行会議の委員の1人として言うが、会議では、首相を含めて「国家主義教育」を志向する者は誰一人としていない。今日の教育の実情を踏まえ、否応(いやおう)なくグローバル化する社会の中で、わが国が生き残るための方途を他の先進国の制度などを参考にしながら、教育の側面から真摯(しんし)に議論している。議論の内容も事後だが、すべて公開されている。

 ≪歴史認識めぐる誤解が障害に≫

 国際社会にも誤解がある。ボストン大学国際関係学部長のウィリアム・グライムス氏は「安倍首相は中国、そして韓国との間で、無用の緊張を生じさせている。米国からすると、彼の行動はまったく擁護しがたい」とし、首相が村山談話の撤回をもくろむならば、ナチスとの協力関係が露見した後にオーストリア大統領になったワルトハイム元国連事務総長が、大統領として米国訪問できなかった例に倣って、「米国の大統領にも国務長官にも接触できなくなるだろう」と述べている(週刊東洋経済6月29日号)。

 中国や韓国による「南京大虐殺」や「慰安婦=性奴隷」説という、事実に基づかないプロパガンダがいかに強固なものとして米国はじめ国際社会に定着しているかを物語るものだ。


 首相は、政府の歴史認識を事実に即したものに是正したいだけだが、逆に歴史を直視しない歴史修正主義と国際社会から指弾され、国内の勢力も同調して国家主義、右傾化と危険性を喧伝(けんでん)する仕組みが作られている。

 「アベノミクス」は一定の効果を上げ、安倍内閣の支持率も高い。が、安倍首相が今後、本格的に「日本を取り戻す」に当たって、最大の障害となるのは歴史認識に関する国際社会の誤解だ。誤解は日本国民全体の恥辱でもある。旺盛に展開している価値観外交とともに、誤解を解くべく、国際社会向けの情報戦に打って出るための組織の設置をはじめ、対応を急がなければならない。(やぎ ひでつぐ)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130709/stt13070903270002-n1.htm