弟は措置入院で、病院の中でも最もセキュリティーレベルの厳しい病室で過ごすことになった。





警察署で勾留されている間は、面会する気も起きなかったが、入院となると放置するわけにもいかなくなった。契約が発生するからである。





母は母で問題を抱えているため、動けるのは姉と私だけである。





入院している病院は、措置入院(強制入院・公費負担)とは言え、その後の医療保護入院(契約した家族の許可がないと退院できない)、任意入院(本人の意向次第でいつでも退院できる)への移行を想定して、入院費や医療費の取りっぱぐれを防ぐために、患者の家族からの保証を取り付けようと必死である。






これまで弟から何をされたかを思い返せば、当然の反応と言えるが、姉は非常に嫌がっていたものの、弟の入院に際して必要とのことで、仕方なく保証人欄にサインした(ちなみに私は実務担当)。





弟のこれまでの悪行の数々を考えれば、拒否してもいいレベルである。






今回、我々は仕方なく弟の措置入院に対応したが、統合失調症の当事者は、いつまでも家族から面倒を見てもらえるなどとは、ゆめゆめ考えないでいただきたい。





家族もいつまでも生きていないし、これまでの経緯から心情的にサポートしようと言う気が起きないからである。そもそも法律上も家族だからといって面倒を見る義務は無い。特に、兄弟間はである。






ちなみに、実家に居座って家族に暴力を振るい続ける統合失調症患者を残して、家族全員夜逃げしたと言う話も聞いたが、この場合は患者をサポートする家族がいない状態なので、病院側や自治体がリスクを背負うことになるのだろうと思う。






実際のところ、姉も私も弟とは縁を切りたいのが本音である。法律的に縁を切る方法はなくても、迷惑をかけてくる統合失調症患者の家族と関係性を断つ、遠ざかるような生き方はできるはずである。





精神病院はどこでもそうだと思うが、患者の状態によってセキュリティーレベルは異なっている。





措置入院となった弟のセキュリティーレベルは最上級で、面会の手続きはこんな感じである。





まず、病棟の玄関チャイムを押して、入院患者のフルネームと患者との関係を職員に告げると、奥から職員さんが現れて、最初のゲートをカードキーで開けてくれる。





さらに、自分の荷物はロッカーに入れ、金属探知機でボディーチェック、患者宛に持ってきた物品は中身が改められ、ズボンの腰紐やペンなど、患者にとって自殺や他者に危害を加え得る凶器となるものは、持ち込み禁止で弾かれる。





その上で、次のゲートを職員さんにカードキーで開けてもらい、さらに館内をてくてく歩いて、1番奥にあるゲートを再び職員さんにカードキーで開けてもらい、やっと最上級セキュリティーエリアにある弟の部屋(無施錠)にたどり着くことができる。





玄関から職員さんの持つカードキーで、3回扉を開けてもらわなければ、弟の入院区域に入れないと言う厳重さである。




ちなみに、面会時間は15分程度で、帰る時も、職員さんのカードキーで来た時と同じように扉を3枚開けてもらわなければ出られない。




弟の部屋にテレビはあるが、巷のサウナにあるテレビのように、壁に埋め込まれているタイプ(しかも手が届かないように天井近くにある)で、天井には24時間監視の全方位カメラが付いている。





トイレは監視カメラの死角にあるが、ベッドには毛布や掛け布団の類はなく、ただ寝転がるだけという感じである。




おそらく、掛け布団を引き裂いて紐状にし、自殺するのを避けるためだと思われる。




初めて弟と面会した時、弟はお風呂に入っていなかったらしく、とても臭かった。お風呂はいつでも入れるはずなのだが、弟自身が入ろうとしていない状態だったので、とにかく部屋が悪臭で満ちていたため、早急に風呂に入るように勧めておいた。





私が措置入院後の弟と面会しようと思ったのは、事件の日、母と弟の間で何が起きたのか当事者から直接確認したかったからである。




しかし、弟は意味不明のことをしゃべるばかりで、ほとんど収穫はなかった。




母(認知症)も弟(統合失調症)も脳の機能障害なので、こちらが質問しても、記憶が曖昧になっていたり、妄想が入って上書きされていたり、まともな情報が返ってこない。





残念ながら、当時聞き取りを行った警察や弁護士から聞いた情報以上に新たな情報は得られなかった。