平成の後半ぐらいから日本では不倫という言葉が超流行語になってしまった感がある。それだけ不倫は話題にし易い。妻を、あるいは夫を裏切った不届きものとその相手を糾弾して、裏切られた妻や夫に同情する極めて単純な構図。頭を使わずとも誰でも非難と同情の言葉が出てくる。「酷いやつ」とか「かわいそう」などなど。

 

不倫という言葉は手元にある岩波の広辞苑第三版によると「人倫にはずれること。人道にそむくこと。」と極めて簡潔に書かれている。昭和58年12月に第三版が出版されているから、まだ不倫という極めてプライベートな事象が多くの大衆の話題になることが少なかった時代でこの短い説明で十分だったのかもしれない。今は既に第七版が発行された広辞苑、残念ながら手元にないので調べられないが、不倫糾弾ブームの昨今ではもう少し詳しい解説がされているのではという気がする。

 

不倫という言葉から想像するのは、婚姻(あるいはそれに準ずる)関係にある者が第三者と性的関係を持つことで、その第三者も婚姻関係にあれば今はダブル不倫という言い方をしている。でも法律的には不倫という言葉は存在せず、不貞行為と呼び、法律上、不貞行為が問題になるには婚姻、内縁、婚約関係にある者が他の異性と性交、あるいはそれに類似した行為を継続して行った場合だという。これは民事上の違法行為と認定されうるが、そのためには被害を被った本人が訴えなければ成立しない。マスコミが話題探しに張り込みをして、相手のプライバシーを侵害して写真を撮りまくり、世間の晒し者にする、今の日本で何故か流行っている不倫ネタはおおかたこんなふうにして作られているのでは。

 

この捉え方が正しければ、不倫を糾弾する前にプライバシーの侵害を続けるマスコミが非難されるべきではないかと今更ながらに思うのだが、日本ではプライバシーを抹消されている人種があまりにも多すぎる気がする。もっともいわゆるタレントと呼ばれる人達は話題になってナンボという存在だから、不倫すらも自らの食い扶持にしてしまうところがある。かつては高度な技能が求められたアナウンサーという仕事もすっかりタレント化してしまった。落ちぶれた歌手や俳優もタレント化する傾向が強い。テレビや週刊誌の話題になるならどんなネタでもいい、プライベートな部分も曝け出すから笑ってもらって大いに結構、それで仕事になるなら構わない的なところがある。自らが人間としての尊厳を放棄しているようなところもあって側から見てもちょっと悲しい気がする。正直言って、タレントごときが公人扱いされても困るのだが、彼ら自身が公人扱いされたいようだから話題にし易い。

 

政治家なら公人と呼ばれても仕方ない。選挙で選ばれている以上、公の責任を背負った存在だから公人の部分が大きいのは確かだ。それでもプライバシーは尊重すべきだろう。不倫する人間は仕事ができないわけではない。むしろ多くの場合はその逆で、男でも女でも不倫できるほどの魅力がなければ仕事でも人を引き付けるのは難しい。なにも不倫を奨励するわけではない。むしろその当事者でもある私には、できれば不倫などしないほうがいいと思うとしか言えない。でも自らの来し方を振り返っても、不倫をしていた時期、そしてその中でも一番大切な女性たちに巡り会えた時期というのは自分が一番仕事に脂がのっていた時期、仕事上の大きな転機にあった時期に一致している。精力的に仕事に情熱を傾けている時が、周りから見ても自分自身が一番輝いていて魅力的だというわけだ。それは頷ける気がする。

 

だから不倫するのもそう簡単な話ではないのである。そして真面目な不倫は他者の興味本位な干渉を許さないものがあって然るべきなのだ。真面目な不倫というのもおかしな表現かもしれないが、不真面目な不倫のほうが圧倒的に数は少ないだろう。セックスが大好きでどうしようもない、いわゆるニンフォマニアであれば見境なく性欲を満たす相手を探すだろうが、それは病気であって世間一般に言う不倫とは少し違う。不倫には極めてプライベートな事情があり、それを面白おかしく第三者が批判したり同情したりできるものではないと思う。当事者にしかわからない理由があり、そしてそれは当事者本人でも言葉でうまく説明できるものではないことも多い。ましてや第三者のような他人に理解できるものではない。

 

道徳的に許せないという人が特に女性に多い。でもそんな女性でも知らぬ間に不倫していることもあるだろう。そして初めてそれが如何に心の底からの希求のなせるわざだったかを思い知るのである。もしそうした不倫を経験することなく、他人の不倫を軽蔑し非難するしかしない人には誰も不倫というリスクを冒してまで近づいてみたいとは思わないだろう。

 

不倫礼賛はすべきではないが、不倫する男女のことはそっとしておくべきだ、口出しする権利があるのは子供を除けば3人か多くても4人、つまり、不倫する男女とその公なパートナーだけなのだから。一番いいのは公のパートナーにはばれない不倫をすることだ。それなら誰も傷つかず、民法上の不貞行為も成立しないのだから。

フォローしてね