ア・ソ・ボーと言った彼女の顔は僕に優しく微笑みかけていた。
自分がどういう顔をしていたのかはわからないが、緊張というよりははやる気持ちを抑えるのがやっとだったかもしれない。ただ、夫である彼がどんな役割を果たすのか、それだけは少し気になっていた。
しばらくして彼が戻ってくると、今度は僕がシャワーをする番だった。と言うよりは、あなたもシャワー浴びてらっしゃいと彼女に言われて、そうか、彼はそのために席を立ったのかとわかった。
脱衣所には綺麗に折りたたんだタオルが大小1枚ずつ置いてあった。周到に用意されていたタオルだ。始めからこういうつもりで僕を誘ったわけねと頭の中で思った。
シャワーを浴びた後、また服を着なおすのもおかしな気がして少し考えていると、彼女がドア越しにもう用意はできたかと聞いてきたので、腰にタオルを巻いたままドアを開けると、なにも言わずに僕の手を引いて階段を上って、大きなダブルベットのある部屋に僕を導いた。
老夫婦がダブルベットなんてあとから思えば変な気がするけれど、その時はそんなことには考えは及ばなかった。もっと大事なことが目の前に控えていたから。
彼女は僕の目の前で手際よく白いタイトスカートを脱いだ。白い可愛らしい下着が目の前に現れた。駅前で車に乗る前に観察したあの下着とはシルエットが違っていた。あの下着は上品にお尻の半分以上を覆っていたが、いま彼女がつけている下着は同じ白い色でも肌を覆う部分はごくわずかなように見えた。というのも、彼女は脱いだばかりのタイトスカートを後ろにある椅子にかけるために僕に背中を向けたのだが、ピンクのブラウスの裾が彼女のお尻をわずかに覆うだけで、ふたつの柔らかで形の整ったふくらみが手にとるように僕のすぐ目の前にあった。
そこに椅子を置いて僕にお尻を見せるように背中を向けたのもすべて計算づくだと思った。そう思うと僕もとてもやりやすかった。罪悪感もなにも存在しない。
彼女が僕の方に振り返ると同時に僕は彼女のブラウスのボタンをはずし始めた。シャワーをしたばかりで僕の肌はまだ少し湿気がある。彼女の服を汚したくはなかったし、早くそのかたちのいい胸に触れてみたかった。彼女もそれがわかっていたかのように、うっすらと微笑みながらされるがままになって、僕の目を見ていた。
白いタイトスカートの上にピンクのブラウスを投げかけて、彼女を抱きしめると、彼女の柔らかい胸が僕の胸と一体となった。熱い口づけをしたあと、彼女の耳元で3人で遊ぼうって言ったけどご主人はどうするのと尋ねると、彼女は僕の後ろの方に視線を移した。
彼は既にシャツを着たまま下半身はむき出しで部屋の入り口近くに立っていた。彼女が僕の耳元で彼にも聞こえるような声で教えてくれた。彼は僕たちの行為をああやって部屋の入り口から覗き見しながら自分でするのだそうだ。覗き見といっても堂々とした覗き見だと僕は思った。彼女が誰かと楽しんでいる姿に興奮を覚えるということだった。だから彼女の顔ができるだけ彼に見えやすいように気をつけてほしいと彼女は言った。
彼は無言のままそこに大人しく立っていた。居るのか居ないのかわからないほど静かに。
僕は彼のことなどほとんど気にならなかった。二人ともいいと言っているのだからなにを遠慮する必要があろうか。多分そんな割り切り方をしたのかもしれないが、本当に彼は静かで、そこにいることさえわからないほどだった。
僕と彼女はひと通りのするべきことをして、それからベットに横たわり、更に激しく求め合った。終わりの方で彼の微かなうめき声が聞こえたような気がした。その瞬間、彼女はほんの一瞬だけ彼の方に視線を移した。そしてそのあと僕が彼女の中で果てた時にはもう彼の姿はなかった。
しばらくして僕が彼女から離れようとすると「もう少し待って」と囁いた。この熱い余韻が好きなのだと。
シャワーを浴びて改めて服を着たあと、ビールでも飲むかと彼女に聞かれたが、もうお酒は十分という気がしたのでお茶をもらった。3人とも日本茶にした。
彼が駅まで送るというのでお言葉に甘えた。子供たちが待つ家に帰る前に後片付けしなければいけないということで、彼女とは玄関でお別れした。ピンクのブラウスに白いタイトスカートのままだった。駅前であった時のようにきちんと下着もつけていた。
別れ際にもう一度唇にキスしてくれた。凄く良かった、ありがとうと言いながら。
駅までの道すがら、僕と彼は先ほどまでのことには触れなかった。ただ一言だけ、素敵な奥さんですねと言った。半分はお礼のつもりで言った言葉ではあったけれど、もちろん僕の本心だった。
また会おうと言って別れたものの、お互いに連絡を取り合うことはなかった。
4、5年して新宿か渋谷の繁華街でばったり二人とすれ違ったことがある。最初に彼女が僕のことに気づいたらしかった。挨拶もなにもなく、二人は僕を避けた。何か汚いものを避けるかのように、僕から急ぎ足で遠ざかっていった。きっと何か嫌な思いでもしたのだろうと思った。いや、僕とではなく、ただ、僕としたようなことを知り合ったばかりの男たちと繰り返している間に何かまずいことにでもなったのかもしれないと。なぜ、あの時避けられたのかは知る由もない。
あの二人も幸せに生きているだろうか。まだ僕の大学の友人の近くに住んでいるのかな。いや、多分違うだろう。彼らは持ち家だったけど、僕の友人は借家だったから、きっと結婚を機に引っ越ししただろうな。みんな幸せなら嬉しいな。
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