小学生の頃の食事で運動会や遠足の時に食べるお弁当は楽しみのトップに来るのではないか?
少なくとも私はそうだった。
給食とは違う手作りのお弁当。
考えただけでもワクワクする。
母がまだ美容室を経営する前は、運動会や遠足の時はお弁当を作ってくれていた。
当時はまだ家族が運動会に参加し、お昼ご飯は運動場で一緒に食べていた。三段重の大きなお弁当は、子供が大好きなおかずがぎっしりと詰まっていた。
本当に美味しくてお腹がいっぱいになっても、お重に残っている俵型のおにぎりやチューリップ型の唐揚げを見たらついつい手を出してしまっていた。
その楽しみも小学生の中学年までだった。
仕事を始めた母は事あるごとに忙しいを口癖の様に言う様になった。
忙しいと言う言葉を聞くと何事があってもこちらの希望は叶えられなかった。
例え小学生の一大イベントである遠足や運動会があっても手作りのお弁当は、惣菜屋さんの豪華なお弁当に変わるのである。
一番良いお弁当を頼んであげたから、お昼までには届けてくれる様に言ってあるから。
少しは罪悪感があるのか、いつもは見せない何とも言えない笑顔で母は言うのであった。
皆んなが嬉しそうにお弁当を広げ始めた時に、お惣菜屋さんがお弁当を届けてくれるのである。
皆んなの視線を感じながら、恥ずかしさと怒りを隠してその豪華なお弁当を受け取るのである。
私はおにぎり一つで良いから作って欲しいと頼むのだが、それさえ面倒くさいかったのだろう母は常套句の様にちゃんとしたおかずの入った美味しいお弁当を頼んだからと言うのであった。