私は子宮全摘術を受けるまで、お手入れはサロンでワックス処理をしてもらっていました。ゴムのような素材を熱で溶かし皮膚に塗って、固まったところでビリッとはがして脱毛する、SEX & THE CITYにも出てきた方法です。

けれども、おへその横からおへその下へくるりと曲線を描き、そこから下腹部へとのびる15センチの傷が手術でできてからは、ビリッと剥がすのがこわいなぁという思いで足が遠のいていました。

夏になって、いろんなエステサロンがテレビや雑誌やウェブなどで広告を出す中で、とっても安い値段で光脱毛をお試しできるという大手のCMが何度も何度も目に飛び込んでくるので、予約を取ってカウンセリングを受けてみることにしたのです。最初から傷口付近は不安なので、最初は両脇で試そうと、両脇コースで。。。

予約の日。約束5分前に当該店舗の自動ドアを抜けると、中はやわらかい色で統一された受付兼待合室。予約の時刻と名前を伝え、椅子にかけてお待ちくださいとの案内に、まだ誰もいない待合室に座っていました。すると予約時間までの5分の間に、私の左の椅子2席と、ドアをはさんで向こう側の椅子2席もいっぱいになり、さらにこれから施術を受けるという人が何人も奥の施術室に招じ入れられていきました。

今までプライベートサロンのようなところしか行ったことがなかったので、こんなに多くの若い女性がこういったサービスを受けに来ているというのを知って、新鮮な驚きを感じていると、受付からローズマリーさんと声を掛けられました。私の番のようです。

カルテのようなものを持った受付の方が待合室で待っている私のそばへ来て挨拶をされ、書類を見ながらコースを確認し、「これまで大きな病気やけがをしたことはありませんか、毎日飲み続けているお薬はありませんか」と尋ねられました。

左にはうら若き女性が2人、通路を挟んで向こう側にも2人座っています。受付の中には係の方が4人くらいいたかな。私の目の前の受付カウンターにはピンクリボン運動を応援しています!というポスターが貼ってありました。

人がいっぱいいるけれど、尋ねられたのだから答えないといけないかと思い、1月にがんの手術を受けました、と言いました。私の隣の隣に座っていた方はギョッとしてこちらを凝視されました。隣の方は凍り付くように動かなくなりました。

尋ねた方はにこやかな笑顔を崩さず、こちらでは手術をしたり、大きな病気やけがをした経験のある方には施術できないことになっていると話されました。私は、もうがんは取りきれていて、追加治療は受けていないことを話し、主治医から許可をもらえば施術してもらえますかと尋ねると、「こちらは美容サロンですので、、、」と話されます。

大病を患った人は美容サロンに行く資格がないというのか、美容サロンには病気を経験した人を扱う技量がないというのか、その真意はわかりませんが、この「こちらは美容サロンですので」というのを3回は繰り返されました。

そして、どこか別室へ移りましょうか?と尋ねてくださいました。でも、もう人に聞かせたくないシビアな話はすでに全部話した後でした。残念。私はその「美容サロン」を後にして、何かもやもやする気持ちを抱えながら仕事場に行きました。

ネットでその会社のウェブサイトを見てみると、がんだけでなく、糖尿病や甲状腺の病気を持つ人も受けられないと書いてありました。そのほか、こんな持病がある人はだめなんだそうです。以下添付。

・癌の既往症がある方
・内科系疾患の方
【感染病(B型肝炎・C型肝炎・その伝染病など)、糖尿病、心臓病、肝臓病、甲状腺疾患 など、その他日常生活に障害がある疾患】
・緑内障の方
・薬物アレルギーの方
・アルコール依存症の方
・ペースメーカーを使用している方
・てんかんの既往症がある方
・その他、通院中の方

また、年齢制限はないけれど、生理が順調にきていることが条件ということなので、子宮や卵巣を全摘している人、理由があって生理がない人も受けられないようです。


タトゥーをしている人に関してはタトゥーのある場所から5センチ以上離れればOK、アトピーの人は症状が落ち着いていたらOKと書いてあるのに、がんだと即×です。

きっと、光脱毛の施術が体に色んな悪影響を及ぼす可能性があるというのでしょう。でも、何がどのようにいけないのかはどこにも書いていないのです。


おかしな感じしませんか?


私は去年の6月に人間ドックを受けてがんが見つかりました。今はもうがんは切除してしまっています。去年の5月の私なら、お腹の中にがんはあってもこのサロンで光脱毛を受けられたのです。今はがんがなくても施術してもらえません。


本当にがんの人に施術するのが危険なのであれば、申し込みをする人はがん検診を受けて、異常なかったことを証明してからでないといけないのではないの?これって屁理屈ですか。


甲状腺に関しても、実はみんな気づいていないだけで、女性の10人に1人はなんらかの疾患を持っていると聞いたことがあります。疾患を知らずに施術される人もきっと大勢いるはず。この施術を受けられない人の規定、ぐだぐだすぎます。


何人かの友人の医師に聞くと(内科医、外科医など専門がばっちり合っているわけではないけど)なぜ断るのかわからない、きちんとした理由無きサービス拒否は、ひいては病気の人に対する差別となる恐れがあると話されました。


それと私には、ピンクリボン運動を応援するポスターの前でがんの人はお断りと言われたことにとってもとっても違和感を覚えたのです。乳がん検診を受けましょう!という一方で、でもがんが見つかったらうちはお断りだけどね、と言っているように感じてしまいました。


私には無理にでもドアをこじ開けてサービスを受けさせろという気は全くありません。でも、がんになって初めて、がんを理由にサービスを断れるという経験をし、驚き、みんなにも知ってもらいたいなと思ったのです。皆さんにはがんを理由に何かを断られたことがありますか?


長文になっただけで上手くまとめられませんでしたけど、今回、違和感を感じた点はこのようなところ。
(1) 問診票に記入ではなく、受付の皆がいる前で口頭で病気について話させる。
(2) その疾患がなぜ光脱毛に向かないのかの説明がない。
(3) その疾患にかかっていないという証明はいらない。
(本当に危険であれば必要なはず)
(4) がん経験者は問答無用で断るのにピンクリボン運動は応援している。


因に、日本エステティック振興協議会の「美容ライト脱毛自主基準」「Ⅱ営業に関する基準」によると、「2.美容ライト脱毛を行うものは、消費者の安全を確保するために消費者の健康状態、肌質、毛質に関する事項を把握し、記録しなければならない」とあります。


なので、私の行った「美容サロン」は、私たちは健康な方を対象としています、と言って面倒だと思われる人を排除するのでしょうね。もとから健康な(だと思われる)人だけを対象とすれば、そこまで健康状態に気を配る必要がありませんもの。


でも、大手が軒並みこれをやってしまうと、それが過剰な自己防衛になってしまって、既往症を持った人への差別につながり、危険だというのです。これから仕事の合間を縫ってぼちぼち社会に働きかけていこうと思います。