冬至。一年中で最も昼の短い日。

暗くて寒く、太陽の力が弱まっていくこの時期は、悪霊の力が強まると昔は考えられていたそうです。

牧畜や農耕で暮らす民族にとって、太陽はまさに恵みの象徴で、その日照時間が日々減って暗闇に近づいてゆく冬至までの期間はとても心細く不安なものだったのだろう。だからこそ冬至はおめでたい日として祝われた。日本でも古くから「一陽来復」と言って、この日を境に運が上向くとされていたそうです。

この時期にキリスト教の大切な祝祭日があるのも、この日を境に日照時間が増えていくありがたさが復活の象徴として結び付いたから、と云われているそうだ。

僕は宗教にはまるで興味がない不信心者だけど、人が宗教を求める気持ちはわからないでもない。いつの時代でも人は生きていくのが心細くて、何が正しくて何が誤りなのかがわからなくって、だから誰も抗えない超越した力を持つものを設定することで心の拠を作る。神に祈りを捧げることで心細さから解消される。不安から解放される。そういうものなんだろうな。

音楽も、もともとの始まりはそういう“祈り”の気持ちから生まれたものなのだろうな、という気がします。

日常を越えた絶対的な存在に触れることで、自分を小さなものとして謙虚に認識する。そのことは不安の解消にとても効果がある。


歌に込めた祈り成分の高さ、超越した歌の力、とくればこの方、アレサ・フランクリンです。


Amazing Grace / Aretha Franklin


アレサの歌は、60年代アトランティック・レーベルでのヒット曲の数々も、80年代以降の女王のように堂々としてパワフルな録音も大好きなんですが、やっぱり黒人解放運動とリンクした70年代初頭が圧巻です。

これは、1972年にロサンゼルスのバプティスト教会で録音されたゴスペル・アルバム。

そもそも高名な牧師の家に生まれ幼い頃から教会で歌っていたアレサにとって、ゴスペルはルーツでありホーム・グラウンド。オープニングの“Mary,Don't You Weep”、チロチロしたオルガンとピアノが刻むゆるいリズム、クワイヤのコーラスの中にアレサの♪ウェェェェ~というハミングが入るだけでもう教会はアレサ・ワールド。キャロル・キングの“You've Got A Friend”も奥行きの深いゴスペルに。圧巻なのは、延々と10分近くにわたって熱唱する“Amazing Grace”。いかにもゴスペルっぽいバラードだけではなく、映画「ブルース・ブラザース」でJBが飛んだり跳ねたりしながら歌っていた“Old Land Mark”とかノリのいいのもたっぷり。聴衆の熱さもハンパない。

バックのメンバーは同時期の「Live At Fillmore West」や「Young,Gifted,and Black」などと同じく、バーナード・パーディー(dr)やチャック・レイニー(b)、コーネル・デュプリー(g)らが務めているのですが、ここでは匿名性の高い歌伴に徹していて、とにかく主役のアレサのパワフルな歌を盛り上げている。

力強いといっても、単なる馬力としてのパワーだけじゃない。熱量と、よくしなるしなやかさと、遠く深くまで浸透していけるだけの持続的な強さを兼ね備えたアレサの歌は最強だ。

かぼちゃを食べて無病息災を願い、柚子湯に入って邪気を祓うように、冬至にはアレサのゴスペルを。