春らしい陽気、久しぶりの土日連休。
ひと月前の寒くて縮こまっていた頃とは違ってふわふわとあたたかい陽気、なんとなく自然と心がゆるんで穏やかな気分になれます。
日本に生まれてよかったなぁとしみじみ思うのは、こういう四季の移り変わりを感じられるときですね。
古くからの暦で「二十四節気七十二侯」っていうのがありますが、季節の移り変わりに名前をつけるということそのものが、とても豊かなことだなぁ、って思います。清明とか霜降とか、名前そのものもとてもイマジネイティヴで。
僕はけっこう気温やお天気と気分が直結するタイプで、暑い日には冷たいものを、寒い日には温かいものを食べたくなるのはもちろんですが、晴れた日には晴れやかな音楽を、雨の日には雨っぽい音楽を聴きたくなります。
そんな季節とともに移ろう気分を音楽で表現するとどんな感じ?ってことで新シリーズを始めたいと思います。
 
まずは「春分」。
国民の休日でもあるのでとてもメジャーな日ですが、これも二十四節気のひとつ。
昼夜の長さがほぼ同じ頃になり、この日を境に徐々に昼が長くなり、気温も暖かいと感じられる日が増え、本格的な春が始まる時期。
花冷えや寒の戻りがあるので暖かいと言っても油断は禁物ではありますが、気分としてはいよいよ春!って感じですよね。
こんな時期に心地よいのは、穏やかで心やすらぐ歌もの。アコースティックな響きで、できればやわらかな大人の女性の声がいい。
ってことで、キャロル・キングさんです。
 
Tapestry / Carole King
 
たおやかでやわらかい声、でも甘ったるくはなく、芯の強さを感じる歌。
ゆっくりと花が開いていくような美しさと生命力を湛えた演奏。
力強くもどこかもろくて儚げなピアノの音色。
このレコードを聴いていると、嬉しいことも悲しいことも辛いことも楽しいことも、成功も挫折も失望も幸せも、いろんなことがあったんだろうな、って思いが湧いてくる。で、いろいろあったけど今はとても満ち足りた気分なんだろうな、って。
そして、そういうことを乗り越えてきた人だけが持つことができる本当の強さや、人生に於いて本当に大切なことをそっと教えてもらったような気がしてくるのです。
 
キャロルさんがこのアルバムをレコーディングしたのは29才のとき。10代の頃から後に夫婦になるジェリー・ゴフィンと組んでソングライターとしてヒット曲を連発して成功も名声も手に入れた彼女だが、ビートルズなどロックンロールの台頭とともにソングライターとしての栄光は過ぎ去り、やがてゴフィンとも離婚してしまうことになる。
失意の中でニューヨークからロサンゼルスへ活動拠点を移し、そこで出会ったリー・スクラーやダニー・クーチらと新たな活動を始め、自らシンガーとして歌い始めたのが27才。
そしてこの穏やかでシンプルなレコードが15週連続一位という大ヒットを記録することになり、一度晴れ舞台から退いた末の返り咲きを果たすことになるのだけれど、このアルバムにはそういった苦労や欲の影が微塵もないのですよね。
今の自分の感じたことをそのまま歌ってみただけ、そんな無欲さというか、ピュアな響きがある。
それが今も時代を越えて心の奥まで響いてくる理由のひとつだと思う。
 
多くを望まずに足ることを知れば、日々は穏やかになる。
成功や名声や、評価されたい、認めてもらいたいといった欲から解き放たれたとき、やっと穏やかな春が始まるのかも知れないですね。
 
と、そんな気分で明日は春分の日。
穏やかな春をこれからも迎えたいものです。