海の向こうドイツでは、年金改革法がこの3月に成立しました。
2012年から毎年1~2ヶ月のペースで年金の受給開始年齢を遅らせ、
2029年には現行の65歳を67歳まで引き上げる内容です。
フランスでも、満額の年金を受給できる拠出期間を
従来の40年間から段階的に延ばし、2020年には41年9か月
とすることを決め、アメリカでも、2027年までに
受給開始年齢を65歳から67歳に引上げることを
1980年代に決めていますので、欧米諸国の足並みが
徐々に揃ってきています。

こうした年金改革の背景には、年金財政の破綻阻止
といった各国の台所事情があります。
高齢化の進展で悪化をたどる政府部門の赤字
をなんとか縮小させようと各国政府とも懸命です。
給付額の減額のみでは対応しきれず、受給開始年齢
を引き上げる道を選んだのです。国民の反発は想像
に難くありません。さらに、受給開始年齢の足並みを
揃えたいとする機運もあります。経済の国際化が進み、
国境を越えた労働者の移動が活発化していることから、
労働条件を揃える動きが進んでいます。とりわけ
欧州連合(EU)内でその必要性が高まり主要テーマ
となっています。

欧米諸国の受給開始年齢の67歳への引き上げは、
日本の年金制度にどのような影響を与えるでしょうか。
そもそも受給開始年齢の引き上げの原点は、
深刻な財政赤字にあります。その度合いが最も
深刻であり、少子高齢化も最速で進んでいる日本
において、現行目標である65歳を67歳に引き上げる議論
は避けて通れないと思われます。2000年の年金改正時に、
「67歳受給開始構想」が一旦浮上しながら国民の反発を
恐れて議論が後退しましたが、再燃する可能性は
大いにあります。

現在の日本の年金制度は、マクロ経済スライド
と呼ばれる給付抑制機能(被保険者数の減少や
平均余命の伸び率を勘案して年金額を減額する機能)
を導入し、年金財政のバランスを図っています。
しかしこの機能は、将来の合計特殊出生率が
現行(2005年の1.26)より低下すると、想定して
いる給付水準(現役世代の手取り収入の50%を
上回る程度)を維持できなくなる恐れがあります。
今後「給付水準の引き下げ」と「受給開始年齢の
引き上げ」のバランスをどうとるかといった議論が
国民的に高まると思われますので、
私たち生活者はこの動きを注意深く見守っていきましょう。